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医療大麻をがん治療に取り入れる目的 その1:標準治療の副作用緩和
医療大麻をがん治療に取り入れる目的は、大きく分けてふたつあります。がんの標準治療による副作用の軽減と、腫瘍そのものの増殖・転移を抑える、あるいは縮小させる「治療としての介入」です。
1990年代まで:がんの症状や標準治療による副作用の症状を緩和させるための対症療法
アメリカでは、1937年に大麻が禁止された以降も大麻は綿々とアンダーグラウンドで使用され続け、当初は移民や黒人ミュージシャン、ビートニクといった一部のマイノリティが使っていましたが、1960年代以降は白人中産階級の若者にも普及していきました。そんな中で、がんやエイズによる食欲不振、疼痛、抗がん剤治療の副作用である食欲減退や悪心(吐き気)などの症状が、大麻を使っている患者の方が軽微であることに人々は気づいたのです。
なぜ大麻がそういう症状に効くのか、科学的には解明されていませんでした。何しろエンドカンナビノイドシステムが発見されたのが 1994年なのですから、作用機序がわからなくて当たり前です。ただ人々は経験からそのことを知っていたのです。
実際に 1985年には、米国食品医薬品局(FDA)がその効果を認め、合成THC製剤であるドロナビノール(商品名マリノール)と、化学合成されたTHC誘導体を主成分とするカプセル製剤ナビロン(商品名セサメット)を「抗がん剤治療に伴う難治性の嘔気・嘔吐」の治療薬として承認しています。
つまり、がんの標準治療による副作用の緩和を目的とした医療大麻の利用はすでに、アメリカ、カナダ、オーストラリア、ドイツその他の数か国では政府によって正式に認められているのです。
ドロナビノールもナビロンも、現時点で日本では使用できませんが、日本で手に入る CBD にも同様の制吐作用があることがわかっています。
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幸い私は抗がん剤治療は必要ないので、自分の治療でそれを検証することはできませんが、抗がん剤治療中にカンナビノイドを併用して副作用が軽く済んだ、という PCAT の患者さんは実際にいらっしゃいます。
また、2018年に Green Zone Japan が日本に招聘した、サンフランシスコ総合病院で長らくがん専門医として勤められた Dr. Donald Abrams は、がんの標準治療に伴うさまざまな副作用について、「緩和ケアにおいては、吐き気、食欲不振、疼痛、うつなどの気分障害、睡眠を一種類の治療介入で改善させられるのであるから、治療のツールの一つとして貴重であることは間違いない」と述べています。
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2000年代以降:副作用の軽減から治療介入へ
このことだけでも、がんの治療に医療大麻を取り入れる価値は大いにあると思いますが、医療大麻には、実はがんの「治療」にも使える可能性が秘められています。1990年代に人間の体内にエンドカンナビノイド・システムがあることがわかり、大麻の作用機序が少しずつ明らかになるにつれ、カンナビノイドの持つ「抗腫瘍作用」についての研究が始まっているのです。今はまだ研究はごく初期の段階で、人間を対象とした臨床試験もほとんどありませんが、基礎研究では有望な結果が出ており、これからの研究成果が期待される領域です。この、医療大麻によるがんの「治療」に関する研究についてはまた後日お伝えします。
<参考資料>
厚生労働省『「統合医療」に係る 情報発信等推進事業』(厚生労働省 HP)
大麻で悪心を抑える(Project CBD Japan)
大麻は吐き気止めとして役に立つのか?(Green Zone Japan)
我が国における大麻草由来の成分を用いた製品の適正な普及に向けた課題―Cannabidiol(CBD)に焦点をあてて―(木下翔太郎)