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お空の神様 【短編小説/何故あめは降るのか】

ヒロシはよいしょよいしょとじょうろを持ち上げながら、じいさんが一生懸命手入れしている花壇に水やりをした。
額から汗をぽたぽたしたたらせながら、じょうろを落とさないように両手で必死につかんでいた。
「おじいちゃん。雨が降ってきたよ」
天気雨だ。
「本当だねえ。ヒロシくんとおんなじだね。お空の神様がじょうろで水やりをしているねえ」

博は初孫の男の子がよいしょよいしょとじょうろを両手で必死につかんでいるのを見ながら、自分も昔はこうだったのだろうか、そしてじいさんもこんな視線で見ていたのだろうか、と思った。
じいさんが大切にしていた花壇。
あの頃の家は建て替えをして全くその頃の面影はないが、花壇だけはあの時のままの姿を守り続けている。

「おじいちゃん。雨が降ってきたよ」
天気雨だ。
「本当だねえ。タカシくんとおんなじだね。お空の神様がじょうろで水やりをしているねえ」

二人は縁側で並んで雨宿り。
タカシくんと呼ばれた男の子が空を見上げながら、
「どうして、時々こわい雨が降るの?」
こわい雨とは台風のことだ。
この夏は直撃コースを取りこのあたりも地区によっては大きな被害を受けた。そして大変痛ましい二次被害も発生した。
「そうだね、、お空の神様が、、」
怒っているんだよ、と博は言いそうになって、とっさに言い換えた。
「忙しいんだよ。ばたばたばたばた、、」
今悲しい思いをしている人たちはなに一つ天の神を怒らせるようなことをしていない。
「え、いそがしい?」
「お空の神様はね、、」
人間という動物だけが飛びぬけてこんなに素晴らしい文明社会を創ったことに感心し驚いた。
しかし、その人間の世界があまりに突然に複雑になりすぎて、神様はついていくのに大変忙しくなった。
神様はばたばたばたばたするうちに、うっかりじょうろを持つ手を傾け過ぎてしまったり、そのままにして水をかけ過ぎてしまったりした。
「そのことで多くの人間を悲しい目に合わせてしまい、自分が情けなくなって大きなため息をついたんだな。するとその風でまたまた人間を困らせてしまった」
「お空の神様かわいそう。じゃあ人間はどうしたらいいの?」

うん。

「空に向かっていつも元気な顔を見せようか」
博は男の子の背中に手を当てながら、
僕たち大丈夫だよって。ばたばた忙しくしなくていいんだよって。
そのためにはタカシくんもおじいちゃんももっともっと頑張らないといけないな。
そして、明るい顔を上にあげて空の神様に見せないといけないな。
「うん!わかった」

博と男の子は笑顔を空に向けた。
初秋のいたずら雨はもうやんで、大きな大きな虹が二人の真上にかかっている。
男の子はその虹について何も質問をしなかった。
二人はしばらく空の神様の贈り物を眺めていた。