幸運・金運の使者 黄金虫(コガネムシ)
縁起の良い虫の代表格であるコガネムシ。金運をアップさせる縁起の良い虫とされています。 今日はこのラッキー・ビートルのコガネムシが主役です。
明治、大正、昭和時代を生き、主に大正時代に活躍した野口雨情という詩人がおります。彼は非常に美しい童謡の歌詞の中に人生の悲しみを封じ込める術に長けています。有名な「しゃぼん玉」では美しい楽しげなメロディーで
しゃぼん玉飛んだ / 屋根まで飛んだ / 屋根まで飛んで / こわれて消えた
と歌いますが、これは雨情の子、長女みどりが生後わずか7日で他界してしまった様子をしゃぼん玉に重ねて慈(いつく)しんでいると言われています。小学生の頃に雨情の伝記を読んだ私にはこの逸話が強烈で「こんなに楽しい曲にこんなに悲しみを込められている事もあるんだ」と思ったことでした。
この雨情がほぼ同時期に詩を書いた童謡でタイトルそのものがズバリ「黄金虫」(コガネムシ)というのがあります。
黄金虫(こがねむし)は / 金持ちだ / 金蔵(かねぐら)建てた / 蔵建てた
飴屋で 水飴 / 買つて来た
黄金虫(こがねむし)は / 金持ちだ / 金蔵(かねぐら)建てた / 蔵建てた
子供に水飴 / なめさせた
これは雨情が詩人として家族を養い子を育てる苦しい生活の中でできた詩です。戦前の格差激しい社会で金持ちを黄金虫(コガネムシ)に見立て、お金持ちは飴屋で高価な水飴を買って子どもに食べさせている。その様がなんとも羨ましいと語っているのです。雨情は子煩悩だった様ですから、その気持ちが察せられます。現代でしたら黄金虫(こがねむし)は / 金持ちだ / 駅ビル建てた / ビル建てた / 子供にゴディバも / 食べさせた 的な感じでしょうか。。
幸運を叶えてくれると言われるコガネムシは身体の色もピカピカの構造色でその種によって独特の色合いを持ちます。また独特の模様を持っている種もいます。
この構造色の美しい色の秘密は科学の少し難しい話になりますが偏光(光の振動が規則的なもの)反射にあるのだそうです。このコガネムシのきれいな反射光は科学的には「円偏光」(光の振動がくるくる回りながら進む)というものになることは、20世紀初頭にはすでに知られていました。1920年代にはその反射機構が「コレステリック液晶」というものに近いという事が分かりました。ただしコガネムシの羽は固体で液晶ではありません。コガネムシの身体表面はコレステリック液晶と言うものに似た特殊なラセン状構造になっているそうです。
左円偏光(対面方向から見て左巻の偏光)を当てると地肌の美しい色が見えるので、この左偏光を反射させている事が分かります。また、右円偏光(右巻きの偏光)を当てると黒く見えることから右偏光は吸収していると考えられます。これからコガネムシの身体表面のラセン構造は左ラセンだと考えられており、その反射光は左円偏光である事が分かっているそうです。
このコガネムシの色の円偏光の実験をしてみたい方は「左円偏光板」(Left Circular Polarization Film)と「右円偏光板」(Right Circular Polarization Film)と言うものをネットの科学実験用資材屋さん等から購入すると、いんどねし屋で扱っている様なレジン標本のコガネムシでもきれいにみられます。「左円偏光板」を通して見ると美しい構造色を確認できます。「右円偏光板」を通して見ると真っ黒に見えます。
さて実はカナブンもコガネムシに負けず劣らずの人気があります。それでカナブンもコガネムシ同様、お守りやプレゼントに使われる方は多いです。コガネムシとカナブンの違いは、簡単に言えば、体の形と食べるものが違うだけだそうです。カナブンもコガネムシと同じコガネムシ科の甲虫です。カナブンはコガネムシと比べると頭の形がやや四角っぽく翅の付け根の部分が大き目の二等辺三角形に見え、やや大柄です。コガネムシは頭部も翅の付け根の三角形も丸っこい感じです。またコガネムシは葉っぱを食べるため、農作物に食害を起こすやっかいな害虫扱いされる事もあります。カナブンは樹液等が餌なので林や森に行かないと見つけにくいです。
ただしカナブンという言葉は、コガネムシ科全般を指す言葉にも使われる事があり、特に金属光沢が強いものを通称カナブンと呼ぶそうで、この辺がカナブンとコガネムシがこんがらがる原因になっているのかも知れません。。
カナブンはまたコガネムシ科ハナムグリ亜科に分類されるので、大型のハナムグリと見ることもできます。ハナムグリにも美しい構造色を持つものがいますので、このようなハナムグリも人気があります。
最後に再度、Rutelinae亜科 Parastasia属(分類がまだ微妙な所がある)のセレベス島で採れた美しいコガネムシを見てみて下さい。これ一見黒っぽくて非常に地味なんですけど、様々な方向から光を当てると、胸や脚にオレンジ色の模様が浮き上がったり、金色や深緑色、オレンジ色やサファイヤ・ブルーに反射して、それはそれは美しい。日本人受けしやすい隠れた美しさを持つ虫と感じますので、虫好きの方、ぜひお見逃しなく。
今回は詩から物理光学、情緒や占いの世界からガチの科学までのジェットコースターになってしまいましたが、最後までお読み下さり、ありがとうございます。