夏目漱石『行人』感想文
二郎と嫂が、嵐の中の暗闇の室内で相対する場面があります。僕はこの舞台からいくつか連想したことがあるので、以下にそのことを書きます。「“深淵”(暗闇)に落ちた男性を女性が救いだす」というモチーフは、小説では頻繁に使われていると思います。そのさいに、男性が深淵から救出されるかどうかは、作家たちによって違いが出る箇所です。たとえば漱石の『それから』では、物語終盤に代助は“赤の世界”(深淵)に陥りますが、三千代は代助の“赤の世界”と心中する覚悟がありました。安部公房の『密会』では、主