藍染めで儲けられるか?食べていけるか?
私が手掛ける別のブログへ訪れてくださる方の中に「藍染め」「儲かる」「食べていける」といったキーワードで検索をかけていらっしゃる方が散見され、藍染めに興味を持たれているけれど独立可能なものなのかどうか迷っておられるのだろうなぁ…と想像しています。
私なりに藍に携わってきた約15年の経験を踏まえて、今お伝えできることを簡単にまとめてみます。
(1)儲かる保証が無いのは何でも一緒
常識的な前提として、藍染めだろうと何だろうと「顧客リスト」を持って開業できれば「(とりあえずは)食べていけるかどうか」の目途は立ちます。それが無いのであればハイリスクローリターンの険しい道のりとなりますが、これもどんな業界に身を置いても同じことと思います。険しい道のりだからと言って廃業するとは限りませんし、顧客リストがあるから長きにわたって安泰かと言えば、そんな保証はどこにもありません。立ち上げられてから後の取り組みが大事であることは、どんなお仕事にも共通していることだと念頭に置いておくことは大切だと思います。
ちなみに私たちは顧客リストを持たずに会社を立ち上げましたので、非常に厳しい思いをしました。偶然全国区のテレビ番組に取り上げていただくことが無ければ、会社の継続はとても困難な状態が続いていただろうと思います。(反省点は諸々ありますが、それはまた別の機会に…)
(2)つまるところ、藍染めは儲かるのか?
ありていに言うと、簡単には儲からないです。
藍染めは基本的に手作業の工房が多く、いわゆる量産効果を単純に見積もることのできない状態でスタートするところがほとんどだろうと思います。
一枚ずつ手染めすると、人件費がその一枚にもろにかかる。染色作業にかかった人件費を正直に計算すると、市場での販売価格はかなりの高級品になります。
そんな手仕事の高級品を購入するとき、無名の工房の物を購入するのか、ある程度経験を重ねている工房もしくは職人から購入するのか、考えない人は少ないのではないでしょうか…
やってみると分かることなのですが、藍染めで難しいことの一つが「ムラなく染め上げる事」。経験を重ねた職人さんかそうでないかは、ムラの入り方でおおよその見当がつきます。せっかく購入するならムラの少ない安定した仕上がりの物がいい。高級なお値段がするのであれば、それはなおさらのことでしょう。
人件費をまともに乗せたら高級なお値段になるのに、その値付けをすると未熟で無名な工房ではまともな競争にならない。この壁は高いです。これをどう切り抜けるかは、その人の作戦次第。
別の問題として、染料「すくも」の生産量が減少し手に入りにくい状況が続いているため、自分の意図しないところで自社商品の年間生産量の限界を設定されてしまうリスクがあります。つまり、「すくも」が品切れして「染めたくても染められない」ということになってしまう可能性がある。
数年前に実際にそのような状況に陥って困窮なさった染め場が続出したことがあります。
この壁を超えるにはどんな工夫が必要か。これも作戦が必要な場面ですので、どうぞお考え下さい。
私は偉そうにHow to を説ける人間ではないので、具体的な方法論をここで迂闊に披露するつもりはありません。そして、どんな壁を目の前にしても、「自分で考える」ことができなければ「困難」は「困難」であり続けることを経験してきたから、ここでは「考える準備」ができるヒントを提示するのにとどめたいと思います。
で、藍色工房は儲かっているのか?
ごめんなさい、夢の無い答えを言いますが、儲かっていません。これには大変クリアな理由がありますが、今回お伝えしたい趣旨から大きく離れた話に突入するのでまた別の機会に…(こればっかりや)…
でも、これではいけないという想いで頑張っています。「はい、儲かりますよ、藍染めは儲かるんです!!」って言えるようにするにはどうしたらいいか。私も修行中なのでございます。
(3)なぜ藍染めなのか
どんな壁を目の前にしても思考を停止させずに前に進み続ける原動力となるのが「なぜ藍染めを続けたいのか」という事になろうかと思います。シンプルで直感的なあなた自身の藍との原体験のようなものが、自分で思うよりずっと深く大切な原動力になっている可能性があります。
そういうシンプルで忘れがたい直感を、うんと大切にしていい。これは、誰かにはっきり言語化して伝えられなくても、むしろ構わないとすら思います。
そういった直感的なものの他に、染色を通じて体験してきたことや関わった方々とのつながりの中で「継続していきたい」「後世に残したい」と思われるような事があるかもしれません。むしろそういったものが無い状態で「天然素材でブランディングして勝ち組に!」的な発想で染め場の立ち上げに取り組まれる方は少ないように見受けます。(今までは。)
そんな方にこそお伝えしたいことがあります。やる気だけで乗り越えられないときに必要なのは、仕組み。大切なことに取り組み続けられるよう健全に儲けていくための「仕組み」を意識しなければ、あなたの大切な「想い」は搾取され続けます。その結果、コストと納期に追われ続けて化学染料と化学薬品で「藍染めっぽく」染めたものを不本意な安価で卸し続けることになった人をたくさん見てきました。そんな状況に疲弊し、本来夢見た世界を垣間見ることもできず、消えていく人もたくさん見ました。
染色技術の精度、染料の確保、販売における戦略、その全てに通じるあなたの想い。実際に手掛けてみて初めて何から調整するべきか見えてくる事がたくさんあると思います。儲かるかどうかなんて誰も保証できません。最後は、「それでもあなたがしたいかどうか」しかない。その想いが無いのであれば、染め場を立ち上げることはあきらめたほうが良いと思います。あきらめきれない想いを持って前に進まれるのなら、失敗を恐れず、一つ一つの仕事に大切に取り組んで、私たちと同じ業界の人間として一緒に頑張ってもらいたいと心から願っています。
多分この記事は、多くの人にとって期待外れの内容になっていると思います。だけど、「儲かる」なんてはっきり保証してくれる仕事や業界がこの世の中にどれほどあるのでしょうね。。。