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錬金術と浮世絵と藍染(1)

 阿波藍ギルドの崩壊をいくつかの切り口から俯瞰しながら、明治維新に日本に起こったことは何だったのかと考え続けています。ヨーロッパ諸国と日本の「ものづくり」に対する概念の根本的な違いが存在し、その前知識のないまま未知の産業や経済システムが流れ込んできたことによる混乱があったのは間違いないでしょう。
 その「根本的な違い」の一つに「錬金術」という概念があったのではないか…。ここを切り口とした考察を試みようと思います。


錬金術とは

 「錬金術」と聞いたら、オカルト的な響きに感じる人も多いかもしれません。その発祥は紀元前エジプトや古代ギリシアに遡り、暮らしや産業を支えるための真面目な学問の一つとして始まりました。
 当初の目的は、化学的手段によって卑金属(酸化しやすく水分や二酸化炭素によって容易に侵食される金属)から貴金属(化合物を作りにくく、希少性のある金属)特に金を精錬しようとすることでした。地殻の底で数千年かかって劣位の金属が高位の金属に変化するプロセスを、人工的に加速させる技術の研究とイメージするといいと思います。

 やがて、エジプトからイスラム世界に伝わり、ギリシアは中世アラビアに影響を与え、それらが中世ヨーロッパに伝播し大流行した頃の目的は、「賢者の石」と「エリクサー(エリクシル)」の精製へと展開していました。

賢者の石:神に等しい智慧を得る過程の一つが賢者の石の生成とされていた。人間を不老不死にする力を持つ。
エリクサー:金属変成や病気治癒を可能にする霊薬。

 対象とする物質は金属に限定されず、人間の肉体や魂をも含む動植物などあらゆる物質が研究範囲に組み込まれました。そしてそれらをより完全な存在に錬成することも目的とされるようになりました。
 こうした試みの中でオカルト的な様相が深まっているのですが、長年のさまざまな研究によって発見された硫酸、硝酸、塩酸などは化学薬品の源流であり、錬金術が促した発見の数々は近代化学の礎となっている側面もあります。

 「劣位のものを自らの技術でコントロールし、高位のものに変成する」という発想が、化学の発見と発展を生んだと考えていいように思います。そしてその根本で望まれたことは、「不老不死」を含んだ「不変性」であったのではないでしょうか。その延長線上には「神の領域」に挑む姿勢があるようにも思います。

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