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いい藍色は元気な土から(2)

 質の良い染料原料としてタデアイを栽培するために、「土」が大事だという話を続けたいと思います。


藍菌の循環

 藍建(あいだて・染料を染められるように調整すること)の際、甕の中で重要な役割を担っているのが、「藍菌」と呼ばれる還元能を持つ菌です。これは特定の菌の名前ではなく、複数の種類の菌がこの働きをもっていて、その総称として藍染業界でこのように呼ばれています。ほぼ親しみを持って呼ばれていると言ってもいいと思います。
 この藍菌には、芽胞形成菌の一種が含まれていることが分かっています。

 この芽胞形成菌は元々畑の土に住んでおり、育成中のタデアイに付着していくようなのです。ということは、化学薬品を使用せずに建てた甕なら、また土に還すことは不自然な作用にならないということだと考えられます。
 染液はアルカリ値が高いので多少希釈する必要がありますが、この希釈した染液を散布した土で野菜や果物を栽培すると、病気にかからないとか害虫が激減したとか、土にミミズが増えたなどの報告が一部上がっています(健康な土にはたくさんのミミズが住んでいます)。これについて化学的な検証を厳密に行なったわけではないのでさらなる実証が必要とは思いますが、この20年近くの経験上、少なくとも土を傷めるという体感はありません。傷めるどころか、土が痩せていく様子もありません。
 ちなみに、私の甕の染液に含まれるものは、蒅(タデアイを発酵・熟成させたもの)もしくは沈殿藍、灰汁(木灰を熱湯で撹拌したものの上澄み液)、麩(小麦の殻)、貝灰(主に赤貝の殻を焼成したもの)が主です。

 土の構成要素は有機物で、そこには菌の死骸も含まれます。しっかりと働いた後の藍菌たちが、土に還って次の世代の糧となり、また元気なタデアイとタッグを組むという循環が続いていきます。土も水も汚さずどこにも無駄がなく、つまりゴミが出ない。本当に健全で、清々しいです。

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