電子書籍デビュー1年で何が起こったか
2023年3月に電子書籍を初出版して、約1年2ヶ月が経ちました。これまでに手に取ってくださった方には、心より御礼申し上げます。おかげさまで、思いもよらなかった景色を観続ける1年を過ごしました。出版後に起こったことや変化については、トータルで「挑戦して良かった」と思えています。今回は、それらについてのいくつかの点を具体的にまとめておこうと思います。
同じ思いでいる人と出会えた
まず電子書籍出版をして一番良かったと思っていることについて。
それは、藍について同じ思いを持っている人と出会えるようになったことです。拙著『伝統色藍 7つの秘密』は、藍染の技術書ではなく、職人・工房紹介の本でもありません。主に藍農家・藍配合石けん開発者としての体感をまとめ、あまりこれまでの藍関連書籍で触れられることのなかったエピソードを含め、伝統色として伝えられてきた藍の姿をいろんな角度から切り取り、記録したものとなっています。
その結果、藍染に携わっている人からは「今までなんとなく気になっていたことを言葉にしてくれた」とご感想をいただき、藍染ファンの方からは「藍染の世界に奥行きを感じられるようになり、今までより深い親しみを持って藍染を使いたいと思うようになった」とお声を寄せていただきました。
私が参加するイベントに駆けつけてくださる方はもちろん、講演依頼をいただくことにも繋がり、実際にお会いする機会をいただいて、そこからさらに広がりのある企画が生まれたりしています。
SNSでのコマ切れな発信では伝えきれないことを丁寧に発信することで、藍の世界に丁寧に思いを向けておられる方との出会いが叶っているように思います。
ペーパーバックは必須だった
藍染に携わっている人や藍染愛好家は、やはり電子データよりアナログな質感を伴う紙の書籍をお好みのようです。Kindle版(電子データ)とペーパーバック(注文ごとに製本するサービス)の両方をリリースしましたが、これまでの販売実績では売上の約90%がペーパーバックでした。
私も紙が好きなので、初めて電子書籍を出版する際に先にKindle版をリリースした後、すぐにペーパーバックのデータ作りを学習して、追っかけリリースを敢行(やはり製本された自著を手に取った時の感動は良いですね…震えました)。
この結果については、ジャンルが違えばKindle版だけで十分なことが多い可能性もあるので、全ての電子書籍に共通で起こることではないと思います。多分、アナログなジャンルの専門的な内容になる場合は、ペーパーバックが好まれるのではないかという体感です。
また、藍染関連のイベントに参加する際、ペーパーバックを会場に陳列することができるというのも、この形の利点の一つとなりました。この1年間、どの会場に並べてもそれなりに売り上げが立っていました。
仕事が増えた
先にも少し触れましたが、出版がきっかけとなり講演依頼をいただくようになったのは、とても光栄なことだと思っています。拙著の内容をもとに、藍をより身近にかつ深く感じられるようなお話を心がけるようにしています。
それから、藍染仲間による対談形式のトークイベントの記録を出版するという機会にも恵まれています。これは不定期でシリーズ刊行することになっており、2023年12月にvol.1を、2024年4月にvol.2をリリースして、現在vol.3の編集作業を仲間たちと進めています。
実際に藍染に携わる人との語らいには新たな発見も多く、貴重な記録となっています。少しずつ号を重ねて行けたらいいなと考えています。
また、出版のための取材にも出かけるようになりました。現場やさまざまな記録の素晴らしい資料と出会う精度が高まり続けていて、貴重な学びの日々を送ることができています。
これに関しては、仕事が増えたというより自分の意識の変化から行動が変わったという事になるのだと思いますが…「書いて残す」ことを意識した取材という探索作業に、今までよりさらに細かく粘っこく取り組むようになった感じがしています。
もちろん、電子書籍出版を希望する方のサポートも始めました。さまざまな専門家の声を電子書籍にして、後に続く人へのバトンとして渡していく仕事だと思って取り組んでいます。
印税について
これから電子書籍出版をしようとお考えの人が最も気にされていることの一つが印税だと思います。Amazonの電子書籍は毎月の販売分が精算されるシステムになっています。私の場合は、リリース後に1冊も売れなかった月が今の所ありません。一番少ない月で3000円弱、一番売れた月で約10000円の印税となっています。
オンライン上に書籍販売のための有料広告は出していません。書籍アピールのためのリーフレットをA4カラー片面で作り、通販で藍染め石けんなどをお買い上げいただいたお客様に同梱しています。また書影入りの名刺も作り、機会あるごとにお渡ししています。
その程度で初出版の印税が発生するのかと疑われることがあります。これには「藍染」という専門ジャンルで出版していることが関連していると考えられないでしょうか。なぜなら、藍染をしている人には常に「なぜだろう…」と考え続けてしまうさまざまな藍についての謎がたくさん存在しており、少しでも多くの情報が必要とされているからです。ですが、藍染関連の新刊はそれほど多くない。
何か資料が欲しい時、Amazonで書籍を検索するのは珍しくない行動となりました。そこに見たことの無い関連書籍が登場したら、やはり気になります。目次を見て興味の引かれる項目があれば、ほとんどの場合は購入に至ると思います。
つまり「ニッチな専門分野で」「あまり知られていないけれど」「役に立ちそうな情報」を初出版したときの目安としていただければ良いのではないでしょうか。
また、私が広報・宣伝にもっと時間と費用を投資していたら、売り上げはもっと伸びていると思います。
ということで、超アナログな「藍染」とハイテク(?)な「電子書籍出版」は、相性が悪くなさそうだという体感でいます。引き続き出版作業に丁寧に取り組みながら、検証を続けてまいります。