ゲームレポート:ゼノブレイド -ディフィニティブ エディション-
導入部のあらすじ
変えたいかい?―――未来。
“巨神”と“機神”、大海にそびえ立つ巨大な二柱の神の身体を大地として、全ての人々・生物が住まう世界
はるか昔、巨神と機神は互いの存亡をかけて争い、相討ちの末に立ったまま骸となった
悠久の時が流れた後、ホムス(人間)の暮らす巨神界は機神界より度重なる侵攻を受けるようになっていた
しかし一年前、一人の英雄が深紅の神の剣“モナド”を振るい全ての敵を殲滅
世界に平和が訪れた
巨神の脛にある街“コロニー9”に住むシュルクは、学者兼エンジニアとしてモナドの謎を研究しつつ、親友のラインや、英雄の妹で幼馴染みのフィオルンと共に穏やかな日々を送っていた
ずっとこんな変わらない毎日が続くと思っていた―――突如、空襲警報が鳴り響き、機神兵にコロニー9が灼かれるあの日までは
街を守る戦いの中でシュルクは意図せずモナドに適合し、能力を覚醒させる
未来視(ビジョン)―――少し先の未来を視る能力
しかしそれでも、戦いの中で大切なものを守りきることはできなかった
仲間達の仇を討つため、モナドや未来視の謎に迫るため、シュルクは巨神界・機神界へと旅立つ
ゲーム概要
オリジナルは2010年にWiiで発売された、新シリーズのRPG “ゼノブレイド”
ゼノシリーズの系譜に数えられる当時の最新作であり、発売当初よりそのシナリオ・バトルシステムの作り込みの深さと高い完成度から大変高い評価を受けた
その好評だったストーリーや基本システムはそのままに、グラフィックをSwitch水準まで大幅に強化し、遊びやすくUIや一部システム等を改善・追加した上で、更に追加ストーリー“つながる未来”を加えて発売されたのがこの作品(DE版)である
戦闘はコマンド選択式のリアルタイムバトル
技にあたる“アーツ”は、発動後に一定時間(リキャストタイムと呼ばれる)待てば再度使用できる仕組みになっており、MPという概念はなく、待ちさえすれば何度でも放てるという特徴を持つ
バトル中も移動が可能で、アーツによっては位置取りが重要なものもある
マップは擬似的なオープンワールドと言えるほど広大で、またRPGとしては地形の高低差が非常に大きい
これは、この世界の大地が“互いに剣を交えて立ったまま骸となった神の身体”であることと非常によくマッチしており、この“縦にも広がっていくワールド”こそがこのゲームの特色の1つとなっている
オススメポイント
非常に重厚で、アツく感動的なストーリー
このゲームを傑作たらしめている一番の要素はこれである
ネタバレになってしまうため詳細はここには書けないが、メインストーリーは大変よく練られており、序盤からいくつもの山場が配置され、鮮やかにプレーヤーの心を掴んでいく
立ったまま骸となった神の身体、という舞台設定からして唯一無二かつ秀逸であり、この独特の世界観とモナドや未来視の謎、シュルク達の想いや旅の動機・行動が綺麗に絡み合い、アツく心動かされる物語が展開される
ギャグシーンとシリアスなシーンもバランスよく配置され、プレイする人を決して飽きさせない
パーティーキャラは7人居るが、どれも個性的かつ共感が持てるキャラばかりである
戦闘面でもしっかりと差別化されている上、どのメンバーもそれぞれの登場以降はストーリー全体に渡って見せ場がキチンと配置されているため、空気になってしまうキャラは一人もいない
バトルに上手く組み込まれた“未来視”のシステム
様々なRPGにおいて、占い師やら巫女やらで“未来が視える”キャラはしばしば登場するが、大抵そのようなキャラは非戦闘員だったり、バトル中は何故か能力が発動せずに役立たずだったり、ということが多い
しかし、このゲームではシュルクの持つ未来視がバトルシステムの一部としてちゃんと実装されている
バトルは味方3人で行うが、敵の攻撃でこの内の誰かが致命的な攻撃を受けそうになる(倒される・瀕死になる・深刻なデバフを付与される等)と、一定確率で一度時間が止まり、その攻撃を食らう様子とその結果が未来の光景として映し出される
プレーヤーはその光景が現実のものとなるまでの僅かな時間にそれを阻止するような行動を取ることで、破滅的な未来を破壊して回避することができる
そして、この“破滅的な未来の回避方法”についても非常に柔軟な対応ができるようになっている
例えば「体力が減っている味方キャラAが、敵の物理攻撃を受けて倒される」という未来が視えた場合を想定する
このケースでは、
Aの体力を回復する
盾役のBが敵のターゲットを奪い、自分が狙われるように仕向ける
Aに物理防御アップのバフをかける
Aに回避確率アップのバフをかけて回避させる
Aに防御させる
Aに一定ダメージカットのバリアを張る
攻撃してくる敵を転倒や睡眠状態にして行動不可にする
攻撃される前にその敵を速攻で撃破する
等のいずれの方法を取っても“未来を回避”することができる
これにより、いわゆる“初見殺し”にもそれなりに対応でき、理不尽なやられ方は起こりづらくなっている
また、バトル中は各キャラ毎にテンションの高低があり、これによりクリティカル率や回避率が影響を受けるが、上記の破滅的な未来を完全回避するとメンバー全員のテンションが一気に上限までぶち上がり、戦況を有利に持っていける
このように未来視システムは、危機的戦況を一気に覆して敵を圧倒する、プレーヤーに有利なキーシステムとして非常に評判が高い
広大で美麗なフィールド
概要でも触れたが、ゼノブレイドのマップは一つ一つがとても広大で、しかも高低差が大きい作りになっている
他のRPGマップと比較してこの作りは異色であり、美麗なグラフィックもあってどのエリアも印象深いものとなっている
また、今作には時間と天気の概念があり、朝・昼・夕方・夜でフィールドの光景は刻一刻と変化し、出現モンスターも変わる
時間はメニュー画面からいつでも任意で調整可能
更に、大地がひと続きの神の身体であるため、例えば脚のあたりのマップから手に持った剣が遥か上空に見えたり、背中から後頭部の地形の一部が見えたり等、エリア同士の繋がりを上手く感じられるようになっている
なお、マップ上の特定の地点(ランドマーク)に一瞬でワープできるファストトラベル機能と、ボタンを押し続けなくても前に走り続けるオートラン機能が最初から解放されており、マップの広大さに比べて移動のストレスはかなり抑えられている
奥深い戦略のバトルシステムと“ユニークモンスター”との手に汗握るバトル
ゼノブレイドではモンスターはフィールド上に予め配置され、近づいて敵がこちらに気付くとシームレスでバトルが始まる
モンスター毎に様態も様々で、群れを成して連携技を放つもの、単独で徘徊するもの、微動だにしないもの、いきなり上空から出現するものもいる
基本的にバトル中は敵の周囲を移動しつつアーツで攻撃していくことになる
威力や効果範囲、リキャストタイム等を考慮しながら使うアーツを選んでいく
それぞれ特定のゲージが溜まれば、タレントアーツと呼ばれる個人固有の必殺技や、三人で連続してアーツを叩き込めるチェインアタックも発動できる
また、抜刀時・クリティカル時・攻撃回避時等に簡単なボタンチャレンジが発生し、成功させるとキャラ同士の声掛けが発生してテンションが上がり、様々なバフ効果も得られる
先述の未来視システムも含め、常に戦況を見ながら適切な行動を取ることが重要で、適度な緊張感のあるバトルが楽しめる
なお、仲間キャラはバトル性能面でもはっきりと住み分けされており、各々が完全に独自の役割を持っている
三人のパーティーをどう組むのかも戦略上とても重要
また、フィールド上の特定の場所には二つ名を冠する“ユニークモンスター”が配置されている
これらは周囲の敵とは一線を画す強さを誇り、初見時に無対策で突っ込めば、いくら未来視があろうと全滅は必至
一種のやり込み要素であり総計150体以上存在するが、中にはラスボスを軽く越える強さを誇るものもいる
装備とアーツを強化して対策を練り、最初苦戦していたモンスター相手に戦術が上手くハマって倒せた際の達成感はひとしおである
街の人々の相関図“キズナグラム”と、それに積極的に絡むサブクエストの数々
今作の街には多数の名前つきのNPCが住んでおり、彼らの人間関係は“キズナグラム”という一覧図で確認できる
NPC同士を結ぶ線にはその関係名と良好度が表示され、例えば「仲良し親子」「険悪なライバル」「信頼できる同僚」「捨て駒」等、内容はさまざま
大きく離れた場所に住む二人が意外な関係性で結ばれている…なんてことも
そして、彼らはシュルク一行に様々なサブクエストを依頼してくるのだが、その結末によって彼らの関係は多彩に変化していく
中には結末が途中で分岐するクエストもあり、その結果によってもキズナグラムは刻々と変化する
例えば、同じ女性に想いを寄せる二人の別の男性NPCから「プレゼントを送りたいから◯◯を取ってきてほしい」という依頼を受けた場合、どちらに協力するかで関係が「恋人」になるか「いいお友達」になるかが逆転する、等である
しかも、その結末を受けて更に別のクエストが追加発生することもある
NPC達の人間模様に積極的に介入し、時にはその人の進む人生にまで影響を及ぼし、しかもそれが蓄積・記録されていくこのシステムは、単純な“おつかい”になりがちなサブクエストにストーリー性を与える画期的な仕組みであると言え、サブクエスト自体の数の多さも相まってより深い没入感を得るのに一役買っている
周回プレイ可能
アイテムや装備をほぼ全て維持した上で、二周目以降も遊ぶことができる(DE版の改善点であり、オリジナル版は引き継げるアイテムの個数に制限があった)
一周目で倒せなかった・見付けられなかったユニークモンスターを討伐してみたり、見られなかった別分岐のサブクエの結末を見ることもできる
快適に遊ぶためにDE版から追加された数々の改善点
・メインクエスト、サブクエストの目的地の明示化
オリジナル版では、広いマップと引き換えにクエストの目的地が分かりづらく、何時間も迷子になって彷徨うプレーヤーが続出した
この声を受け、DE版では目的の人物・アイテム・モンスターがマップのどこに存在するかが明示され、そこへのナビゲートも出せるようになった
なお、ヌルいと感じたら任意でオフにすることも可能
・キャラのレベル調整機能の追加
前述の通りサブクエは魅力的かつ期間限定のものもあるので見付け次第手をつけてしてしまいがちだが、こうするとキャラのレベルが上がりすぎ、メインストーリーがヌルゲーになるという弊害があった
このため、任意でレベルを調整できる機能が追加された
レベルを下げて余った経験値はストックされ、いつでも元の高いレベルに戻れる
また、低レベルでのボス撃破にお手軽に挑める、レベル差補正を逆手に取って“稼ぎ”にも使えるなど、このシステムは初心者からやり込み派まで幅広く歓迎されている
・カジュアルモードの追加
いわゆるイージーモードであり、敵が大きく弱体化する他、レベル差補正がなくなるため格上の相手にも挑みやすくなる
このモードはいつでもON/OFFが切り替えられ、ONにしても獲得経験値やアイテムは一切劣化しない
このため得られる装備の格差等は生まれず、初心者がカジュアルモードで慣れた後はスムーズに通常モードに移行できる
また、特定のドロップアイテムを狙って周回討伐する時に適用すれば大幅な効率化が可能
・オートラン機能の追加
先述のとおり本作のマップは非常に広大であり、移動のために長距離を走らねばならないシーンも多い
そのためオリジナル版では「ボタンを押す時間が長すぎて指が痛い」等の意見もあった
これに対応すべく、DE版ではオートラン機能を最初から実装
これを使えばボタンから手を離してもまっすぐ進んでくれるため、操作のストレスが低減されている
途中でスティック入力すれば即座にオートランは解除されるので、強い敵に突っ込みそうだったり、崖から落ちそうだったり、途中で何か気になるものを見つけたりした場合はすぐにマニュアルに切り替えて操作できる
ちょっと気になったポイント
慣れるまでバトルが忙しい&難しい
オススメポイントの裏返しになってしまうが、バトルの戦略性が比較的高く行動の幅も広い分、どうしてもその難度自体は上がっている
単純にオートアタック(“たたかう”に相当)を繰り返すだけでは到底勝てず、各キャラの役割とアーツの特性を理解し、戦略に合わせたアーツを装備して適切なタイミングで放つことが求められる
また、敵のターゲットは“ヘイトシステム”によって決まる
これは、バトル中に使ったアーツや敵に与えたダメージ等、「どれだけ目立つ行動・敵に恨まれる行動を取ったか」により誰が狙われるか決まるシステムであり、このヘイトについても上手くコントロールし、盾役に敵の攻撃を集めねばならない
すなわち、戦闘中は
・敵との位置取りの調整
・戦況の把握
・ヘイトコントロール
・適切なタイミングでのアーツの使用
を常に心掛けつつ、シーンに合わせて
・ボタンチャレンジ
・タレントアーツの使用
・チェインアタックの実行
・倒れた仲間の助け起こし
・未来視に対応する行動
をする必要があり、リアルタイムバトルということも重なって慣れるまではかなり忙しく感じる
レベル差補正がかなりキツイ
今作では攻撃のダメージ量や命中率・回避率について敵と味方のレベル差によって補正がかかるのだが、この度合いがかなりキツイ
レベルが5以上高い相手だと攻撃がかなり当たりづらくなり、10離れるとまず当たらなくなる
逆に相手のレベルが低すぎるとノーダメで簡単に倒せる分、獲得経験値が大幅に減ってしまう
このため、緊張感のあるバトルを楽しめるのは自分と同程度のレベルの敵に限られる
なお、一定以上レベルが下回る雑魚敵はこちらを見つけても襲ってこなくなる
このため「簡単に倒せて実入りも少ない雑魚がフィールドでいちいち絡んできてストレス」という事態にはならない
序盤から敵が高レベルの地域に侵入できてしまう
オープンワールドライクなマップ構成であるため、一部の地域では同一マップ内に適正レベルを大きく越えた敵が最初から普通に配置されている
前述のとおり、レベルが高すぎる相手にはほぼ歯が立たないため襲われたら逃げるしかないが、遠距離攻撃持ちの敵だと容赦なく倒されることも
要は、「ここはまだ今来るところじゃないですよ」というガイドの役割も兼ねているため、勝てなさそうなら素直に引き下がるのが無難
なお、全滅してしまっても直前のランドマークからすぐに再開可能。特にペナルティもない
サブクエストの一部は期間限定&分岐するものは一方しか結末が見られない
物語の進行に合わせて受注できなくなるサブクエストが一定数存在する(但しそのようなクエストには専用のアイコンがつくため、優先してこなしていけば未達のままクリア失敗とはなりづらい)
また、前述のとおりサブクエストは分岐する場合があり、二つのクエスト内どちらか1つしか達成できないパターンもかなり多い
また、分岐先で更に別のサブクエストにつながる場合もある
全部の結末パターンを見ようとすると周回プレイが必須となる
なお、どのような結末でも最後まで進めればそのサブクエストはクリア扱いにはなるため、どんなにマズイ選択をしてもいわゆる“詰み”にはならない
追加ストーリーはネタバレ
(短所というよりは注意点)
今作に収録された追加ストーリー「つながる未来」は本編の後日談にあたる内容である
しょっぱなから特大級のネタバレ満載のため、必ず本編をクリアしてからプレイすべし
総評
傑作
この一言に尽きる
ストーリー・バトル・キャラクター・ボリューム(やり込み要素)・マップスケールと、ここまで五拍子揃ったRPGはなかなかお目に掛かれない
しかも、このクオリティのゲームが2010年に発売されていたというのも驚きである
特にキズナグラムやバトル時の声掛けシステムはこの後のゼノブレイド作品にも形を変えて引き継がれており、オリジナル版の頃からプレイヤーの評価が高かったことが伺える
グラフィックについては、オリジナル版はハードがWiiということもあり、特にキャラグラフィックについてあまり評価が高くなかったが、このDE版にてモデルが一新されて非常に綺麗になった
オリジナル版で指摘された他の欠点も上手くシステム的に補われており、全方位に隙がない良作に仕上がっている
RPGを愛する人には、是非手に取っていただきたい逸品と言える。