鈴木常吉「ぜいご」
1 疫病の神
2 アイオー夜曲
3 くぬぎ
4 アカヒゲ
5 サマータイム
6 ワーリー・ブルース
7 目が覚めた
8 石
9 藪
10 ミノ君
11 煙草のめのめ
12 父のワルツ
13 思ひで
14 お茶碗
2020年に惜しくも亡くなった鈴木常吉の2006年発売のアルバム。
ギターとアコーディオンの弾き語り、また全編に渡ってホーンの音色が印象的で、ライナーに書いてあるように、男の悲しみに満ちた作品。
暗く、哀愁漂い、だけどもただただ暗いだけではなく、諦念と憂いの向こうにゆったりとした空気を感じる。
暗い荒野の果てで、遠くに見える、ひょっとしたら幻かもしれない遠くの家屋の窓の灯りを見ながら、過去や故郷を想う男の情景。
時代を超えた名作だと思います。
三上寛によるライナーも素晴らしく、まるで古い良質なレコードのライナーのよう。
実際CDを再生させるとレコード針が盤を刻む音のようなかすかなノイズが聴こえる。
そして悲痛さを内包したような男の声で始まる①
時折震える歌声がしんみりと心に沈んでくるような素晴らしい曲。
「あの夕日が沈むまで 俺は此処で息を止めてるよ」
という歌詞は印象的でもあり、子供心も感じる。
それは年齢を重ねた男が呟くからこその深みも感じる。
続く②は、若い頃に見ていた俳優たちの名前を思い出すように挙げていっては、「アイオー、アイオー」と歌う男の声が遠くに消えていくような沁みる曲。
アコーディオンやホーンの音、それに歌詞にもユーモラスな雰囲気を感じる③や⑦は、ゆったりとした気楽な雰囲気と、そこに潜む憂いを同時に感じる。
同じくアコーディオンやホーンの音が印象的な④や⑧は、その音色と張った歌声が悲痛な想いを強く感じさせるようでもある。
いつかの光景に呼びかけているような⑥や⑩は白昼の追憶のよう。
⑬はアイルランド民謡を元にした曲。
深夜ドラマの主題歌にもなったおそらく一番知られた曲。
寒空に「白い息が 少しずつ消えていく」ような、せつなさの煙が漂う曲。
最後⑭もアイルランド民謡を元にした曲。
アコーディオンとホーンの哀愁を感じさせる長い演奏のあと
日常を静かに歌い、咳き込んで、作品は幕を閉じる。
素晴らしいアルバム、素晴らしいミュージシャン。
生前一度だけライブを観たことがあるけど、
心に沁みる演奏と歌声と、気取らない姿が印象的ないいライブだったのを覚えている。
その姿はもう見れないけれど、
時折こうして彼の音楽を思い出し、また聴きたくなる。
そんなふうに彼の音楽に惹かれる人は、きっとたくさん、これからもきっといるんだと思います。