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インド民の代表的言い訳とその対応 ②

(以下は、以前投稿したこちらのコラムの続きです。前段の議論はそちらをご覧ください。)

二つ目に紹介するインド民の代表的な言い訳論法は、相殺消去:Cancel out own fault である。

これは、何か失敗を犯したり約束を守ることができなかったりした時、あなたの側にも落ち度があったことを主張し、自分が悪くなかったかのようにふるまう論法である。つまり、「あなたがこうだったから、私がこうなった」というように、両方ともに落ち度があることを強調するやり方だ。①責任転嫁は、直接的に相手の問題点を指摘している者(あなた)と別の対象に対して、責任を擦り付ける方法であるのに対し、②相殺消去は、あなたの責任を強調し、追求者と非追求者との間でおあいこを狙うという志向性に違いがある。これは、責任転嫁と比べて攻撃的な色を帯びた論法だ。
次の例を見えみよう、
 
<< 顧客からの注文が届いていたが、主担当者が不在のため、業務マニュアルに沿って、バックアップ要員である副担当者が注文に対応するはずであった。しかし副担当者は注文を見過ごしていた。副担当の不注意を問い詰めたら、「チームリーダーである‘‘あなた‘‘が、副担当である私に、『今日は注文が届くかもしれないので見ておけ』と明確にリマインドすべきだった」と反論してきた。>>
 
ここでの彼の主張は、「あなたが私にバックアップ業務を明確にリマインドすれば、このミスは発生しなかった。これは私の責任だけでなく、あなたの責任でもある。(=注文を見過ごした私の責任は小さい)」、ということである。
このような言い訳に対しては、

If you had surely conducted your role, it could not have happened whether another reason was there.

というように、彼が本来の職務を果たしていれば、本件は発生し得なかったことを説明し、相殺消去の罠にはまらないようにしなければならない。もちろんあなたが彼を補助していれば、過ちの発生確率は低くなったかもしれないが、それは、このインド民が、自分の仕事を忘れて、注文を見過ごしてしまったという自分のミスの言い訳にはならないのである。我々日本人から見れば子供のような情けない言い訳を平気で展開してくるインド民の心理状態はどのようになっているのか。この背景分析は、インド社会が持つ「個人特定困難性」や、「恥と損得勘定のバランス」に関する日本とインドとの相違点などの興味深い論点につながるが、別の機会に触れることにする。
 
さて、インド民がこの論法を我々日本人よりも積極的に駆使してくるとはいえ、双方の過失責任を考慮することは一般的な論法であり、インド以外の国でも責任の相殺を狙う言い訳は広く行われているし、一定の正当性を認めなければならない。しかし、インド民の非常にクリエイティブな点は、あなたと彼らとの間で発生している、本当に全く本件とは関係ない事象まで、相殺消去のための道具として急に持ち出してくるところである。まさに江戸の仇をバラナシで討つくらいの、遥かな跳躍力を発揮する。
例えば次のような例はまだ序の口である、
 
<<ある日、雇用しているドライバーが到着時間に遅刻したので、遅刻しないように指摘しようとした瞬間、「ご主人様、あなたが毎日つけている私のタイムカードの記録には間違いが多すぎる!私の給与に関わるので今後は間違いないようにしていただきたい」、と急に怒ってきた。>>
 
インド民のこの話法の特徴は、実際は何も本件に関係がないにも関わらず、あなたに落ち度のありそうな全く別のトピック(ここではタイムカードの間違い)を見つけて、逆に責め立てることで、その場での立場を勝者と敗者に設定し、その結果、本来自分が攻められるはずだった立場と、場の雰囲気を打ち消そうとするやりかたである。この論法を駆使する時には、普段は温厚にもかかわらず、彼らの声のトーンが意図的に強くなったりすることが観察される。一旦このような状況に直面すると、あなたとしては申し訳なく感じてしまい、本来追求するはずだった相手のミスに対して、強気で責め立てる気が削がれてしまう。仮に相手を追求できたとしても、引っ張り出された全く関係のない事象によって、なぜか元々の問題を引き起こした彼の罪が軽くなったような感じになる。「あなたも私も間違いを犯した。だからおあいこである。(二つが相殺された結果、私のミスは軽くなった)」、という間違った相互認識を現場で作り出すこと、これが相手の心理作戦である。もちろん、全く相互関係のない二つの事象によって責任関係が相殺消去されるわけはなく、もし仮に別件であなたに落ち度があったとしても、それは、このインド民が引き起こした問題が消去されたわけではない。
この論法を展開された時の対処フレーズは、

I am not originally talking about such a topic, I am talking about the other topic.

Those two are separated issues. If you want to talk about it, I can talk with you AFTER conclusion of the original point.


のように、まずは即座に会話を切って、元々あなたが追求したかったトピックに即座に戻すことが必要である。相殺消去の論法を展開してくる相手の話に一旦乗ってしまったら、そのまま場の雰囲気が相手側に行ってしまい、相手の思うつぼである。この論法を駆使する上級者のインド民の場合、自分が怒られることを察し、彼らのほうから先手を打ってくる時がある。自分がミスを犯したことについては、さすがに彼らも認識しているので、上司や相手先や雇用主がその点を指摘してくるのを、彼らの鋭い防御本能が探知し、自分が怒られる前に先回りして攻めてくる。

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三つ目に紹介するインド民の代表的な言い訳論法は、③話題転換:Shift to another topicである。

①責任転嫁や、②相殺消去が、明らかに意識的にそれぞれの論法とその目的を志向して展開されるのに対して、③話題転換は、この論法を繰り広げるインド民自身が、言い訳に苦しんで、意図せず展開される場合が多い。そのため攻撃性は低く、明確な方向性がないが、時間を無駄に消費して論点がうやむやになるという点では、あなたにとって十分なマイナス効果を及ぼす。

早速、次の例を見てみよう。これは、工場見学希望者Aと工場担当者Bの会話だ。ここでは、インド民の言い訳を聞いた時の「印象」が大事なので、敢えて英語で記載する。
 
A:I came here for site visit of the factory, but you are now saying that I can not enter into the main plant due to restriction. It is different from our intention and purpose of this visit.

B:Head of the factory is very senior person, so it is not easy and taking time to get the approval from him. It is normally done within three days, but he is very busy recently and it takes five days. He made a good result in operation performance in these years and it made him promoted to the senior rank. His effort contributes to the productibility huge. He made it twice better than before. He deserves his current position.

この会話を見て、どのような印象を持っただろうか。
実は二人の会話は、噛み合っていない。Aが言っているのは、工場見学で見るはずだった重要な箇所が見られないという問題点の指摘だが、Bは、入館制限に触れた後、最近工場長がいかに多忙であるか、なぜ出世したのかを永遠と力説していくのである。工場長の予定や業績をいくら解説してもらったところで、あなたの不満は解消されないし、工場見学のアレンジに不備があったというミスは解消できないにも関わらず、なぜかBは全く違う話題をどんどん膨らましていく。インド民の早口かつインドアクセントの英語でダーッと話されると、日本人の英語力の問題もあり、一体何について彼が話そうとしているのか、話題がずれていっていることさえ、瞬時につかめない。

例文を一瞬見て、どれだけの方が、「こいつは全く関係ない話をしているな。これ以上聞いても意味ないな。」と瞬時に気付いて会話を止めるだろうか。きっと、焦点が戻ってくるのを期待しながら、10分も15分も無駄な説明を聞くことになる。インド在住者であれば、このような類の議論がインド民と我々との間で交わされていることに共感できるだろう。

たちが悪いのは、あなたが、相手の言っていることを、非常に優しく、真摯に理解しようとすると、なんとなく話の流れが作れてしまうところである。この例でいえば、「入館許可を得るためには、工場長の承認がいる。工場長の承認を取るのに時間がかかる。最近は昔よりもどんどん多忙になり、周りから期待されて仕事も多いので、思いがけず承認が間に合わないという事態が発生してしまった。」というストーリーを作ることができる。あなたが善意でストリーラインを補足して彼らの話を聞き続けてしまうと、本筋とは外れた話を永遠と聞かされたあげく、なんとなく相手が説明責任を果たした、そしてあなたが納得したような形で話が終わり、「また来てくださいね」、とさらっと流されてしまう。あなたは、遥々インドの凸凹道を車で揺られて2時間かけた道のりが無駄になり、何も情報を持って帰れず、更に2時間かけてオフィスに戻るのである。

話題転換への対処フレーズは、相手の話が長くなりはじめたな、と思ったところで、

I understand the situation, but
 it is another topic and it's not relevant.

Please logically explain what exactly happened as Step by Step and One by One.

というような形で、早めに話題を切って、元の話題に戻さないといけない。②相殺消去で紹介したフレーズも使えるだろう。その際、相手が初めに話していた話の内容は一旦忘れても構わない。そして、順序立ててゆっくりと再説明を要求し、原因の特定と対応を詰めていく。話題転換は、先に述べたように本人も意図せず苦し紛れに行っている場合が多く、相手が話続けているのを放置しておくと、あなたも何も分からなかったし、相手も何の主張も説明できなかったということになりかねない。相手に悪意がなく、取り乱しているのに気付いたら、冷静に原因の特定と対応に協力してあげて、対応策を検討する方向に誘導したほうがよい。
 

次回のコラムが、このテーマの最後の投稿になる。残る、④因果改謬と⑤解決消去の二つを紹介する。

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