『マスター 先生が来る!』作品トリヴィア/ インディアンムービーウィーク2021
ヴィジャイ×ヴィジャイ・セードゥパティ共演の話題作『マスター 先生が来る!』のトリヴィアを紹介します。
『マスター 先生が来る!』の舞台は、タミルナードゥ州チェンナイと、約700キロ離れた南部のナーガルコーイル。
『マスター 先生が来る!』は2021年前半のタミル語映画界の最大の話題作にしてヒット作。『囚人ディリ』で一躍注目を集めるようになった新進ローケーシュ・カナガラージ監督の長編第3作目。主役のヴィジャイの前に立ちはだかる悪役にヴィジャイ・セードゥパティを配したというのが、まさにcasting coup(衝撃のキャスティング)で、公開前から話題騒然となった。それと同時に、過去の2作では明らかに監督主導の映画作りをしていたローケーシュ・カナガラージと、スーパースターのヴィジャイとがコラボレーションするとどうなるのかという点も注目されていた。ローケーシュ監督自身は、自身の作家性の表出とヴィジャイのファンに向けたスター性の盛り上げとを「50:50」になるように心がけたと語っている。しかし、『Thuppakki』(2012年/ 未)に登場して以来、多数の模倣を生んだヴィジャイの決め台詞「I'm waiting」の、本作での意表をつく使い方などには、バランスを取りながらも凡庸に陥らない監督の才気が感じられる。
▼Lokesh Kanagaraj Interview With Baradwaj Rangan(Film Companion 2021年1月10日アップロード/ 英語字幕付き)
本作のストーリーはそれほど複雑ではなく、独創的な教授法で学生たちに人気のある大学教授が、訳あって地方の孤児院に教師として赴き、暴力が支配する院内の孤児たちの惨状を見て、元孤児で今は恐怖政治を敷いている地域のドンと対決するというもの。
この大学教授のキャラクターには、昔の映画作品に現れたキャラクターの影響が見られると、現地レビューで指摘されている。カマルハーサン主演の『Nammavar』(1994年/ 未)での主人公V・C・セルヴァム教授というのがそれで、実際にこの名前は劇中の一か所で言及されてもいる。ヴィジャイが演じるJDというキャラクターの、シャツの柄、髪型、眼鏡に注目してほしい。
本作の原題である英単語「master」は、南インドでは独特な使われ方もある。
男性教師への呼びかけなどで「ヴィジャイ・マスター」のように固有名の後につける。女性教師の場合は、「ラクシュミ・ティーチャー」のように「teacher」が使われる。
男性の子役の芸名で「カマル・マスター」のように固有名詞の一部となる。女性の子役の芸名は「ベイビー・ラーディカー」のようになるのが通例。成人して芸能活動を続ける場合は、「master」「baby」の部分はなくなる。
男女を問わず、振付師やスタント振付師の固有名の後に「スンダラム・マスター」のように敬称としてつけられることがある
本作の場合は、当然1の用法で用いられている。ただし、教師でも大学教授の場合は「professor」や「madam」をつけて呼ばれることが多いようだ。
男くさい世界を描くことを好んでいるようにみえるローケーシュ・カナガラージ監督だが、本作では3人の女優を配してそれぞれに見せ場を作っている。ただし、それぞれの描写は非常に抑制的。ヴィジャイが演じるJDというキャラクターも、「過去の恋愛にまつわる話を尋ねられると、有名なロマンス映画のエピソードを自分の思い出として語り、聞き手を煙に巻く男」として描かれる。
それら映画作品を登場順に挙げると、
1.『沈黙の旋律(ラーガ)』(1986年/ 上映記録)
2.『7G Rainbow Colony』(2004年/ 未)
3.『Vaaranam Aayiram』(2008年/ 未)
4.『Punnagai Mannan』(1986年/ 未)
5.『Kadhal Kottai』(1996年/ 未)
6.『Premam』(2015年/ 未、マラヤーラム語)
7.『タイタニック』(米・1997年)
となる。
その他にも、過去の映画作品からの引用は多いが、重要なのは以下の二つ。
Adho Andha Paravai Pola (Aayirathil Oruvan/ 1965年/ 未)
学生会長選挙の結果が判明した後のシーンで流れる、♪Adho Andha Paravai Pola。MGR主演の『Aayirathil Oruvan』(1965年/ 未)の挿入歌。同作は、フォークロア・ファンタジーの形をとりながらも、民主主義への曇りのない信頼を歌い上げた有名作。
Kabadi Kabadi (百発百中/ 2004年)
もうひとつはヴィジャイ自身の過去作『百発百中』(2004年)の中の♪Kabadi Kabadi。オリジナルはヴィディヤサーガル作曲だが、本作の中ではアニルドによって♪Vaathi Kabaddiとしてリミックスされた。カバディ(ヒンディー語ではカバッディー)は器具を一切使わないスポーツであるため、インドでは刑務所や少年院などでも行われることが多い。
▼『百発百中(原題:Ghilli)』 、タイトル曲が流れるオープニング。
▼『百発百中(原題:Ghilli)』、カバディの場面(3分28秒あたりから)でもタイトル曲が流れる。
カバディのルールなどについては、▶︎ 日本カバディ協会 ウェブサイトに説明あり。
クライマックスのファイトシーンの引用元その1。「先生 おいでよ ご飯はいかが」は、『Bommalattam』 (Tamil/ 1968年/ 未)より ♪Va Vathiyareから。
クライマックスのファイトシーンの引用元その2。「バナナの揚げ物 さあどうぞ」は、T・ラージェーンダル監督・主演『Thangaikkor Geetham』 (Tamil/1983)の、♪Vaada En Machiから。
ヴィジャイ主演の前作『ビギル 勝利のホイッスル』(2019年)に引き続き、二人の子役が出演している。一人は、『ビギル』で悪役ダニエルの息子を演じたシャクティ・リトヴィク(Shakthi Rithvik)で、「Kutty Story」のシーンに出演。物語後半で重要な役となるウンディヤルを演じるのは、プーヴァイヤール(Poovaiyar)。歌手コンテスト番組「Super Singer」で3位となり、プレイバックシンガーとしても活躍中。『ビギル』の冒頭ソング「Verithanam」ではラップを披露した。
ラストシーンにはカナガラージ監督と、共同脚本を担当したラトナ・クマールがカメオ出演している。
『マスター 先生が来る!』の冒頭ソング、♪Vaathi Coming(先生がやってくる!)のビデオ・ソングは、YouTubeの世界チャートでピーク時には18位まで上り詰めた。再生回数は現在も増え続け、2.5億回に達し、歌詞動画の再生回数も、1.3億回に達している(2021年9月14日時点/ YouTubeおよびkworb.netデータに基づく)。
インドでの公開後、公開時にカットされたシーンがリリースされた。作品冒頭の追跡シーン、同窓会時の学内の混乱の理由を紐解く内容になっている(作品の結末に触れる内容なし)。
【作品紹介】
マスター 先生が来る!(原題:Master)
公開初週の世界興収第1位! 荒廃した少年院の更生に立ち上がる、正義の教師
名門大学教授のJDは、アルコール依存症気味だが学生には大人気。彼が実施を強く主張した学生会長選挙で暴動が起こったため、責任をとり休職し、地方都市の少年院に赴く。一方、その地方都市で生まれたバワーニは、少年時代にギャングの手で両親を殺され、その後少年院での生活で辛酸をなめ、冷酷非道な非合法ビジネスの大元締めに成長していた。バワーニが支配する荒廃した少年院で、JDは少年たちの更生のために立ち上がる。大人気俳優ヴィジャイ(ビギル 勝利のホイッスル)と注目俳優ヴィジャイ・セードゥパティ(キケンな誘拐)を主役に据えた、勧善懲悪のアクションドラマ。
2020年、新型コロナウイルスの感染が悪化したインドでは、各地の映画館がロックダウン(都市封鎖)のため長期にわたり休館した。劇場再開を待てず、多くの作品がオンライン配信での公開を余儀なくされたが、本作の製作陣は辛抱強く待ち続け、映画館が再開した2021年1月に公開。アメリカ、シンガポール、アラブ首長国連邦、オーストラリアなどでも同時に公開され、初週の興行成績は、インドだけでなく世界1位となる大ヒットを記録した(DEADLINE 2021年1月17日記事による)。
監督:ローケーシュ・カナガラージ
出演: ヴィジャイ、ヴィジャイ・セードゥパティ、マラヴィカー・モーハナン、アルジュン・ダース
音楽:アニルド
字幕:日本語
ジャンル:アクション / ドラマ
区分 PG-12(暴力シーンあり)
2021年/タミル語/179分
©️B4U Motion Pictures, ©️Seven Screen Studio, ©️X.B. Film Creators
▶︎『マスター 先生が来る!』上映情報は、IMW公式サイトにてご確認ください。
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