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『’96』 作品トリヴィア

インディアンムービーウィーク2023パート2でアンコール上映する『’96』作品トリヴィアをご紹介します(結末に触れる内容はありません)。

[ストーリー]

タミル語映画『’96』:1996年に高校を卒業したクラスメートが20年ぶりに集う同窓会。旅行写真家のラームは、初恋の女性ジャーナキに再会して心が揺れる。宵の口から夜明けまでのチェンナイの街を舞台にした2人の対話。タミル映画の賑やかなイメージを覆すノスタルジックな純愛ドラマ。

トリヴィア

タミル映画『’96』のC.プレムクマール監督は、本作で、デビュー監督に贈られるGollapudi Srinivas Awardを受賞。過去の受賞者は、コンコナー・セーン・シャルマ(A Death in the Gunj/ 18)、アーミル・カーン(Taare Zameen Par/ 地上の星たち/ 08)など。

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Posted by Silverscreen India on Tuesday, August 13, 2019

インディアンムービーウィークで上映する作品は、どれもまっさらな状態で観て充分に楽しめるものです。特に '96 は予習が要らない作品の最たるもの。けれど例外的にお勧めしたいのが『ダラパティ 踊るゴッドファーザー』の鑑賞。日本語字幕付きDVDが発売されています。

『ダラパティ 踊るゴッドファーザー』DVDジャケット

『ダラパティ』はマニラトナム監督の1991年の作品。ヒンドゥー教叙事詩『マハーバーラタ』の悲運の英雄カルナの物語を現代に翻案したもの。ラジニカーント演じる主人公がショーバナ演じるヒロインとの仲を引き裂かれ、彼女は別の男に嫁がされるという悲恋のモチーフも含みます。

主人公ラームは『ダラパティ』の挿入歌♪Yamune Aatrile(ヤムナー川で)が大好き。これもヒンドゥー教神話を基にしたソングで、クリシュナ神に恋焦がれる牛飼いの妻ラーダーの心を歌っています。クリシュナ神は別名のカンナンの名で呼びかけられています。

ラーダーが人妻でありながらクリシュナを思うのは、バクティ(帰依信仰)のメタファーだと説明されます。クリシュナとラーダーを歌った『ギータ・ゴーヴィンダ』は邦訳もあります。『ダラパティ』を見られなくとも、この劇中歌のメロディーを覚えておくと『’96』はより味わいを増します。

[参考図書]
『ヒンドゥー教の聖典 二篇ギータ・ゴーヴィンダ デーヴィー・マーハートミャ』(ジャヤデーヴァ他 著、小倉泰・横地優子 訳、平凡社刊)

『’96』ヒロインのジャーヌ(ジャーナキ)は歌好きで、歌唱力で同級生から一目置かれています。その名は往年の大歌手S.ジャーナキにちなんでつけられ、彼女はS.ジャーナキの持ち歌しか歌いません。唯一の例外はタミルナードゥ州の州歌。これは『サルカール 1票の革命』でもチラリと流れます。

実は『’96』のために撮影されながら使われなかったシーンで、主演の二人がS.ジャーナキの家に行き、ゲスト出演のご本人に迎え入れられるというものがありました。公式動画として公開されています。ネタバレはありません。 

『’96』のソングは劇中キャラが歌う古い映画の挿入歌だけではもちろんありません。サントラには8曲が収録されていますが、ストーリーの流れから若干離れたところでフルコーラスで流れる「インド映画的」な使われ方をするのは冒頭の♪The Life of Ramのみです。

ここで注目したいのがアルバム冒頭の♪Anthaathiというソング。トレイラーと本編とでそれぞれほんの一部しか使われていない長大な曲ですが、見終わった後に聞くと思い出し泣き必至というバラード。「アンダーティ」とはタミル語の修辞法のひとつ。 

この♪Anthaathi、終わりの方に男声の詩の朗読が入ります。朗読者は『バードシャー』や『バーフバリ』でおなじみのナーサル。両作でのコミカル・悪役的イメージとはかけ離れた激渋ボイスを聞かせてくれます。非公式ですがこちらに歌詞の対訳もあります。

ナーサルによる朗読は『’96』の本編には一切使われていませんが、詩の末尾のMaatrangal Vidaa Maatrangale Vidaiという文句は本編タイトルのすぐ後にテキストで現れます。本編開始前にも注目です。

本編での表示

『’96』は脚本段階から主演の二人を想定していたそうです。問題だったのは高校時代の若い二人で、オーディションの結果選ばれたのが、アーディティヤ・バースカルとガウリG.キシャン。ラーム役のアーディティヤは性格俳優M.S.バースカルの息子。幸運なデビューとなったようです。

『’96』キャスト募集広告
『’96』ビジュアル画像

『’96』は基本的にリアリズムに依った演出。インド映画あるあるの楽屋落ちはあまりありません。例外が、バガヴァティ・ペルマールが演じる元級友ムラリが同窓会でラームと再会するシーン。『途中のページが抜けている(原題:Naduvula Konjam Pakkatha Kaanom)』の台詞が二人の口をついて出ます。

『’96』より

『途中のページが抜けている(原題:Naduvula Konjam Pakkatha Kaanom/ NKPK)』は2012年公開の超低予算コメディー映画。ヴィジャイ・セードゥパティの出世作のひとつです。バガヴァティ・ペルマールは脇役、『’96』のC.プレームクマール監督は撮影監督として製作に関わっていました。

『途中のページが抜けている(原題:Naduvula Konjam Pakkatha Kaanom)』バナー画像

『’96』はリアリズム演出なので、ヒロインもとっかえひっかえの衣装直しをしません。トリシャーの着る服は全編通して3種類。劇中の大部分で着用の辛子色のクルタ―とタッサーシルクのスカーフ+スリムなジーンズが、よくある組み合わせながらトリシャーが着こなすことによって大評判に。

『’96』より

トリシャー衣装はデザイナーのスバシュリーのオリジナルだったのですが、『’96』のヒットによってチェンナイなどのアパレル店では辛子色のクルタ―のコピー商品が並び、人気となったそうです。写真はフォトセッションだけで本編には現れなかったその他のコスチュームのようです。

トリシャーのコスチューム案写真

©️Madras Enterprises

※2019年10月にTwitter(現X)に投稿した内容を再掲載しました。
※無断転載・再配布を禁じます。


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