#北欧をまなざす vol.4 〜「支援する・される」を越えてゆけ、タポラの障害者福祉〜
Moi! (こんにちは!)#北欧をまなざす ライター・ひかるです。
フィンランドでは暑さの峠を越し、涼しい季節になりました。朝晩は寒くて秋のようです。
私の住む街は自然がとても綺麗で、木陰でゆっくりしたり本を読んだりして過ごす人がいます。
#北欧をまなざす は、フィンランドの教育や福祉、暮らしのあり方を見つめ直していく「inclue」のシリーズです。
※まなざす・・・いろんな視点から社会や物事を捉え直すこと
vol.3では、「対話」をまなざしました!
vol.4のテーマは「障害者福祉」です。
私が6, 7月にボランティアをしたタポラ・キャンプヒルコミュニティ(Tapola Camphill Community)という精神的な障害を持つ人々の仕事と暮らしを支援するコミュニティを取り上げます。
ここで人々はどのような生活を送っているのでしょうか?
障害を持つ人は、周りの人とどのような関係を築いているのでしょうか?
1. 「タポラ・キャンプヒルコミュニティ」とは?
ここ、タポラ・キャンプヒルコミュニティ(以下、タポラ)は、1974年に設立された、精神障害や学習障害を持つ20歳以上の人々に暮らしと仕事を提供するコミュニティです。
タポラでは彼らをVillager(村人)と呼ぶので、ここでもVillagerという呼び方で紹介します。
現在、タポラには約50人のVillagerが暮らしています。また、彼らの他にここで働く職員さんや私のようなボランティア、敷地内に住む職員さんの家族を合わせると、総勢80人ほどいます。
障害を持つ人も持たない人も支え合って持続可能なコミュニティを築くことが、キャンプヒルの大きな特徴です。
タポラの全体図です。
・ピンクの丸・・・機織り部屋や集会ホールなどの屋内の施設
・黄色の丸・・・Villagerの家家には個人の部屋、共有スペースなどがあり、10人ほどのVillagerが住んでいます。
2. 仕事して、生活を営む
Villagerはそれぞれ、タポラでの仕事があります。みんなが役割を持ってコミュニティに貢献していることも、キャンプヒルの特徴です。
仕事内容は、家事や家畜の世話、芝刈り、施設のメンテナンス、木材の管理など多岐にわたります。
タポラの新鮮な牛乳からチーズやバターも作られています。毎週月曜日に販売される手づくりのアイスクリームは大人気です!
こちらは、「いつもこれしか頼まないよね!」とアイスクリームのおじちゃんに言われるほどお気に入りのコーヒー味です。
夏は畑で野菜やハーブを育てます。有機的で持続可能な方法で育てており、採れた作物は食卓へ。
Villagerはそれぞれのできる範囲で作物の世話や収穫を手伝います。
ハーブは乾燥させた後にハーブティーになります。
冬は畑仕事の代わりに、布を織ったり絵を描いたりします。
この封筒もVillagerの作品です。タポラでは毎週金曜日のお昼にお菓子や文具が販売されています。
かわいかったので私もいくつか購入しました!
Villagerはこのようなタイムスケジュールで1日を過ごしています。ボランティアの私もVillagerと同じ時間で生活していました。
また、いつもの仕事とは別に、季節ごとの行事で演奏や劇を披露したり、アートセラピストとともに絵を描いたりしています。
こちらのYoutubeでは、タポラで実際にVillagerたちが働いたり生活を楽しんだりしている様子がさらにわかりやすく紹介されていますので、ぜひ下の画像を押してみてください!
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ここまで読んで、「あれ、ここは障害者支援施設なのかな?」と思った方もいるかもしれません。
このタポラでは、障害を持つ人々に対して「支援する」というよりは、彼らと「共に生きる」という言葉を用いるのが適切だと私は思っています。
3. 「障害は病気ではない」 –– キャンプヒルとは?
タポラは「キャンプヒル」という施設のあり方を取っています。
このキャンプヒルでは、障害を持つ人とそうでない人が共同生活をして、農業・手工業・木工などの仕事を営んでいます。
これは、オーストリアの小児科医カール・ケーニッヒが哲学者・教育学者のルドルフ・シュタイナーの理論に基づき、社会活動として「障害を持つ人々のためのコミュニティーを作ろう」と1940年にスコットランドで設立されたのが始まりです。
日本にはありませんが、ヨーロッパや北米、アフリカを中心とした世界20カ国以上に100以上のキャンプヒルが存在しています。
––––– 障害は病気ではない。みんなそれぞれ違っていると理解した上で助け合おう。
今でこそ、この考えは浸透しつつありますが、タポラが創設された1974年、ましてやカール・ケーニッヒがキャンプヒルを創設した1940年代において、これはまだ人々に簡単に受け入れられるものではありませんでした。
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障害を持つ人々に社会はどのような目を向けていたのかを知る1つの手がかりとして、ここでは政策に着目してみます。
フィンランドでは1935年から1970年の間、優生政策の一環として強制断種が行われていた歴史があります。
遺伝的に相応しくないと政府にみなされた知的障害者たちが子孫を残すことを防ぐために、精管や卵管の切除手術などを強制的に受けさせられていたのです。
このような優生政策はフィンランドだけではなく多くのヨーロッパ諸国やアメリカにもあり、日本でも1996年まで優生保護法が存在していました。
そのような時代において、障害を病気として扱うのではなく、「どんな特徴を持った人でも社会に貢献できる」と信じてキャンプヒルを設立し、さらにそれを世界中に広めたことは、決して簡単ではなかったと想像できます。
4. 「支援する・される」ではなく、「共に生きる」
タポラには、Villager以外にもいろいろな人たちがいます。
私のような海外ボランティアもいれば、福祉の資格を持っている人、海外から住み込みで何年も働いている人など、様々です。
私はハーブを栽培する仕事と、畑で野菜を育てる仕事をしていました。
ハーブ栽培のチームを率いるフィンランド人のリッタさんからは、タポラが大切にしている価値観を教わりました。
リッタさん:私は25年前からタポラで働き始めました。それまでは障害を持った人と働いたことはなかったから不安だったけれど、1つの挑戦だと思って始めたんです。
障害は病気ではありません。彼らはちょっとスペシャルな人たちなのだという認識をタポラでは大切にしています。
そして、Villagerは自分の仕事を持ち、タポラにいる他の人と関わりを持ちながら生活をしています。それは彼らにとって、とても大切なことだと思うんです。25年間を通して、それを実感しています。
もちろん抱える障害によってできることの限りはありますし、それに応じた特別なサポートも必要です。でも、だからといって病気として扱うことはしません。
また、Villagerは同じ家で暮らす人や同じ仕事場の人とたくさんコミュニケーションをとります。人々の関わりの中で生きていくことが、タポラでは大切にされていると感じました。
一方で、タイ人のブンさんからは、Villagerと関わる中で感じる課題意識を教わりました。彼女はVillagerの家で日常生活のサポートをしています。
ひかる:タポラで仕事をする中で難しいことは何ですか?
ブンさん:「どのようにサポートをするか」に難しさを感じています。私たちの仕事は単に部屋の掃除をすることでも食事を作ることでもなく、Villagerのできることを引き出すファシリテーターだと思っています。
私たちがちゃっちゃと世話をしてしまう方が私たちにとって簡単かもしれないけれど、それではVillagerの可能性を引き出せなくなり、タポラが大切にしている考えから反してしまいます。
あるVillagerはシャワーのサポートが必要だけれど、徐々に自分の力でできることを増やせるように、私も試行錯誤をして接しています。
Villagerはもっといろいろできるはずなんです。いろいろできる環境を整えることは簡単ではないけれど、それが私たちの使命です。
ブンさんとお話しする中で、「支援する・される」の関係ではなく、「共に生きる」関係を持つことが大切で、でもそこにたどり着くまでにはいろいろな課題があるのだとわかりました。
難しい側面もありますが、その試行錯誤を通して「共に生きる」ことを貫く信念を感じました。
5. おわりに –– 共に生きるために
私は2か月間タポラで生活していました。
障害を持った人としっかり向き合う機会は今までなく、初めは正直怖いと感じてしまってましたが、次第に自分の中でVillagerは当たり前にそばにいる存在になりました。
Villagerは確かに特別な支援を必要としているので、「支援する・される」という関係性は部分的に成り立ちます。
しかし、最もおそろしいのは、障害を持つ人々との関わりすべてにおいて、無意識にこの関係性を当てはめてしまうことです。
この無意識は、障害を持っている人の可能性を大きく狭めます。障害を持っていない人の可能性をも狭めます。
あらゆる関わりに対して一辺倒に「支援する・される」を当てはめている現実を、私たちは見つめ直す必要があります。
しかし、「共に生きる」のは決して簡単なことではありません。今までの歴史がそれを物語っているし、タポラでも試行錯誤を繰り返しています。
ただそれでも、障害を持つ人もそうでない人も、同じ人として「共に生きる」状態をつくることができると私は信じています。
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次回のテーマは未定です!テーマのアイデアお待ちしています!
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最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
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