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お客様との繋がりが、地域を救う。気仙沼から学ぶ"観光CRM"とは?

2020年7月23日に開催されたインバウンド業界最大規模のカンファレンス「インバウンドサミット2020」。「観光CRM」セッションの様子をお届けする。

観光地マーケティングで大切なのは、まだ地域を訪れたことがない新規顧客の開拓だけでなく、一度訪れてくださったお客様との繋がりだ。関係性を持続したり深めながら、リピートに繋がるよう働きかけたり、新しい商品作りやサービス化の際にフィードバックをもらうなどして活かすこともできる。ただし、そのお客様との繋がりを維持する手法を持たなければ、時間の経過とともに地域への印象が薄れ、いずれ忘れ去られてしまう。

私たちが顧客生涯価値を求めるとすれば、お客様も私たちに対し、生涯を通して色々な商品・サービスを求めている。観光客を呼び込んで地域で育てていくことは国内旅行でもインバウンドでも大事である。日本版観光CRM(Customer Relationship Management=顧客関係管理)の例として挙げられた宮城県気仙沼市の気仙沼クルーカードは、お客様とのつながり作りだけでなく現状把握や戦略策定にも活かされている。スイス・ツェルマットではロイヤルゲストを把握した上での特別な対応が村を挙げてなされている。またCRMだけでなく、地域の首長と各組織が意思統一しコミットすること、そして地元の事業者の経営力を上げる取り組みも合わせて重要である。


気仙沼ファンとのつながりを作り、現状把握や戦略に活かす気仙沼クルーカード

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宮城県気仙沼市の観光戦略を担う(一社)気仙沼地域戦略は3年前、関係人口作りのため、JTIC.SWISS山田氏のアドバイスを元に地域ポイントカード「気仙沼クルーカード」を導入したことで、マーケティングデータの入手や顧客データベース構築に役立てている。市内の事業者126店舗が加盟し、売上は約6億円。クルーカードを保有する約2万5千人のうち、市内在住と市外に住む会員の内訳はほぼ半数だが、会員全員を新しい定義の「市民」とし、関係性構築に取り組んでいる。地域の加盟店での売上などクルーカードを通じて得られるデータをもとに、常に現状を把握し、コロナの影響下においても戦略策定に活用している。商圏の分類や攻めどころを検討する際にも役立っており、現在はマイクロツーリズム戦略を掲げ、コロナの前から宿泊者の約4割を占めていた宮城県内の会員をメインターゲットに設定した。


お客様との関係性の中での新しい価値、新しい商品・サービス作り

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新規顧客開拓だけでなく一度お付き合いができたお客様を逃さないよう、リピーターの囲い込みは施設単位ではなくエリア一体となって取り組むべきだ。ツェルマットでは宿泊施設を中心にデータを取得し、20年の間で20回以上訪問した人をロイヤルゲストとして街が表彰している。その際にゲストにプレゼントする金のバッジは、街の誰が見てもロイヤルゲストと分かるため、サービスや対応など全てが特別になる。お客様のロイヤリティが高くなればなるほど、デジタルだけでなくアナログな手法でしっかり押さえなければならない。

なお、気仙沼では狙う商圏の人たちにどういうニーズがあるのか、お客様に直接聞いている。そこで聞いたものを愚直に作り、優良顧客にはプレミアム体験のモニターに無料で招待する。クルーカードが、優良顧客を囲い込み育て、彼らが満足する商品・サービスをどう用意するかを考える上でも役立っている。


地域におけるコンセンサス

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気仙沼では市長、商工会議所会頭、観光協会の会長、漁協、農協といったメンバーが入っている幹事会があり、意思統一、戦略策定、迅速なPDCAなどが可能になっている。こう言った組織がないばかりに、CRMを作ったもののうまく機能していないところも多い。観光振興だけでなく地域活性化という範囲になると、住民の合意形成や平等性、網羅性の担保について問われることが多いが、経済政策であるがゆえに、一定の線引きが必要だ。公平な手法で事業者を募ったうえで、手を挙げたやる気のある事業者をえこひいきして、後押しして育てる必要がある。人口減少に直面する地域では、お客様に来ていただかないとこの街がなくなるという危機意識を持ち、合意形成にコミットしてもらわなければならない。クルーカードには、一事業者単独ではなかなか生き残れないことを認識し、地域で団結して取り組みたいと考える事業者が加盟しており、経営力を上げるため、生のデータを使った勉強会も開催している。『気仙沼丸』という船に市民や観光客、出身者など皆が乗り込んでこの町を元気にしていこうと船を漕ぎ出す、というコンセプトそのものが、皆の共感と集まる人の意識の強さを感じる。


25,000人の会員を持つ気仙沼の強さ

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お客様と縁が切れることによるリスクは、今後ますます大きくなる。神頼みではなく顧客頼み。今後10年単位で見たときに、疫病や災害などが起こることを想定するならば、やはりこういった関係や繋がりを地域で持つことが大事であり、このこと抜きには考えられないのではないか。今この時期、仮に新規のお客様が訪れなくても、気仙沼は25,000人の会員、つまり売り先を確保している。そこに何か協力をお願いしたりフィードバックを求めることもできる。この強さを皆が理解することが大切だ。そしてロイヤル顧客の管理も必要となる。お客様とつながる仕掛けだけでなく、お客様が望むものに応えていくことが重要である。ただしコロナで事業者も住民も不安になっているため、タビマエからタビアトまでの観光客のカスタマージャーニーとあわせて、地域の事業者と住民の旅の立て付けも考えていく必要があると言えそうだ。

<登壇者>
村山 慶輔 氏
株式会社やまとごころ 代表取締役。インバウンド専門の地域共創事業、情報サービス事業、コンサルティング事業、ビジネスサポート事業。

井口 統律子 氏
株式会社セールスフォース・ドットコム デジタル共創営業部 部長 兼 ビジネスデザイナー。クラウドアプリケーション及びクラウドプラットフォームの提供。

山田 桂一郎氏
観光カリスマ / JTIC.SWISS代表。世界のトップレベルの観光ノウハウを各地に広めるカリスマ。

小松 志大 氏
一般社団法人気仙沼地域戦略 理事・事務局長。気仙沼市全体の観光戦略を推進することを目的に2017年3月に設立。

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執筆:株式会社ジェイ・リンクス 金馬あゆみ
編集:株式会社やまとごころ 堀内祐香

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