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優越感と劣等感、そして嫉妬
遠い昔の話ですが、私はプロの英語通訳者・翻訳者になるための養成学校に通っていたことがあります。今にして思えば、大して強い意志があった訳でもなく、結果的にはその時期のいい経験、いい思い出にしかなりませんでした。
色々なエピソードがある中で、とある先輩が言っていた一言が妙に頭に残っています。顔も名前も忘れましたが、当時既にプロとしてのキャリアを歩み始めていた方でした。
通訳の現場で経験豊富な大先輩と一緒になると、常に劣等感に押し潰されそうになる。一体これまで自分は何をやってきたのか、何故ここまで差があるのか、情けなく恥ずかしくなると言うのです。
その一方で、後輩(=つまり駆け出しの新人の方)と一緒になると、こんなことも知らないのか、私の負担が増えるのに、などと悪魔のような歪んだ気持ちになると言うのです。
人間ですから、こんな不必要な劣等感や優越感に見舞われるのは分からないでもありません。協力もするのでしょうが、プロとして仕事をこなす限り、経験や実力の差が大きいとお互いにやりにくいのだろうとは想像がつきます。
ところで、私には現役バイオリニストの友人がいます。都内の一流の交響楽団に長年所属し、今も第一線で活躍しています。ある日、その彼に上記の通訳者の話をしてみたところ、「そんなのはしょっちゅうだよ」と言うのです。もちろん、音楽家として働く彼の職場での話です。
数十年のキャリアを築き、講師としても活動するプロの音楽家だからこそ、自分にないものを他人が持っていれば、それに気付かないはずがありませんよね。さらにこの方、時に少人数で演奏活動をするときなどは、「あなたとは合わない」とハッキリ言ってしまうこともあるのだとか。
しかし、褒めるのは結構なことですが、相手を非難したり、否定的なコメントで本人を苦しめたりするのは避けるべきですよね。その方を責めても、基本的に自分にメリットはありませんから。というか、何だかバチが当たりそうです。
そして、ここからは振り返って私自身の話です。オンラインの日本語教師として登録している方々は、皆さん本当に様々な経歴や特徴を持っているようです。自分の魅力を生徒たちにアピールして、効率的にレッスンの予約につなげるのに皆さん必死です。そして、それがとても上手です。
ただ、その一方で、「なんでこんなヤツが人気なの?」と思うこともしばしば。もちろん、これは嫉妬だと思います。私は彼らが羨ましいのです。仮に、例えば数十年の経験がある、マンガやアニメに詳しい、若くて美人だ、中国語が流暢だなどなど、選ばれる正当な理由があればもちろん納得です。でも、日本語を教えた経験もほぼないごく普通の人がほんの片手間に、もちろん正式な資格もなく、立派にレッスン数を伸ばしているのを目の当たりにすると、さすがに焦ります。
そもそも、人はどうして他人に対してこうした劣等感や優越感、そして嫉妬を覚えるのでしょうか。十分な経験を積めば、自信がつけば、やがてこんな悩みは消えるのでしょうか。いやいや、やはり人間である限りこれはずっと続くのでしょうか。お釈迦様の助けを借りたくなります。私もまだまだ修行が足りません・・・<焦>