見出し画像

イイで~す

 例えば、化学専攻の大学生が、ある実験の結果を皆の前で発表することになったと仮定します。

 学生:「試験管Aの水はBと比べ、とても熱いです」「試験管Cの水は、もっと熱かったです」

 大学生のプレゼンテーションにしては、何だか違和感がありませんか?表現が、言い方が、何故だか稚拙(チセツ)ではないでしょうか。これが社会人なら、ましてや政治家の発言ならば、なおさらそう感じるはずです。書き言葉ではなおさら顕著と言われます。

 私が小学生の時、教師が「今の山田君の答えは?」と聞くと、クラスメート達が「イイで~す!」と答えていました。でも私は、この言い方が「何か変だな」と思っていました。5年生になると、担任は市の教育委員会の国語主任教諭、つまり「先生の先生」でした。そこで初めて「『形容詞+です』は仲が悪い」のだと教わります。やはり、理由があったのです。

 それでは昔、形容詞の丁寧形は、何と言うルールだったのでしょうか。例えば「美味しい」なら、「美味しゅうございます」です。その他にも、「お暑うございます」「嬉しゅう存じます」「悪うございました」など、思いつく表現がいくつかありますよね。この変化を、形容詞の「ウ音便」と言います。「おはようございます」「おめでとうございます」もそう。さらに、方言ですが、「買(コ)うて来た」も、この名残だと言われています。

 形容詞でなくても、助動詞「たい」「ない」「らしい」なども「イ」で終わるので、「行きたいです」「欲しかったです」も同じ理屈で変なのです。「ご紹介したかったですが」は、「~したかったのですが」と言い換えれば良い訳です。

 これは、小説家やジャーナリスト、コピーライターなどの志望者が受ける「文章教室」でも教えるそうです。書くプロとして、多少なりとも稚拙、あるいは不快に思われる(かも知れない)文や言葉を世に出すべきではありません。「行きたいです」ならば、「行きたいのです」「行ってみたいものです」「希望は行くことです」「行きたいと計画中です」などと工夫できます。

 この件、日本語教師の養成講座でも、私自身はキチンと教わりました。ただ、一般の方々にはその認識がないのです。日本語の学習者たちも「白いです」「面白いです」と教わり、教科書にも勿論そう書いてあります。日本語教育では極めて正しい表現なのですから、不思議な話ですよね。

 この言い方、1957年に国語審議会(当時)がしぶしぶ(?)認めたと言われていますが、せめてネイティブの我々日本人には、特に書くときには、「違和感」を感じて頂きたいです。いや、頂きたいものです。いやいや、頂きたいのです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?