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24時の別れ
彼女とお別れをした。
埼玉にある彼女のお勧めのピザ屋までドライブした後、彼女の家でゆっくり過ごしていた時の出来事だった。
最近、彼女の様子がおかしかった。いつも朝にはLINEの返信が来てたのに、ここ1週間は夜に1通だけ。デート中の会話は全部反論される。話も盛り上がらない。何かがおかしい…。
一番の違和感は、彼女のLINE通知が非表示だったこと。考えたくはなかったが、嫌な予感が駆け回る。
夜、彼女が疲れているようだったのでマッサージをしてあげた。疲れているだろうから、お風呂を洗い、お湯を入れた。22時頃、彼女がお風呂に入りに行き、ソファーに腰を下ろすと、ふと机に彼女のスマホが置かれているのに気付いた。緊張が走る。
何かあった時のために、彼女のパスワードは覚えていた。ただ、まさかこんな時にこれを使う時が来るとは思わなかった。緊張と共に自分の脈が上がる。パスワードを入力してく。
画面が開いた。
ラインは見なかった。何か変なアプリが入っていないか確認した。
「大丈夫。特にないな…」と思い、スマホを右にスワイプした時、
「…。」
彼女と出会った時のアプリが入っているのが見えた。
まさかと思い、アプリを開いた。アクティブになっている。プロフィールを見た。私と出会った際には記載がなかった「真剣に結婚したいと思ってます。」という一文を見て、察した。チャットに手をかけた。
「…。」
絶望、震え、緊張、寂しさ、嗚咽、納得、悲しみ、すべての感情が一瞬で身体を駆け回った。それ以降は覚えていない。彼女のスマホを閉じ、自分のスマホで友人に連絡を取ったのは覚えている。彼女がお風呂から出てきた。目を見れない。自分が動揺しているのがわかる。どうすればいいのか、、。彼女に触れることが出来なかった。距離を取ってしまった。
お互いにスマホを触り、時間が過ぎていく。時計が23時になったのが分かった。今日話すべきか、一旦寝て次の日に話すべきかの葛藤中、最後の決めては先輩からのチャットでの一言だった。
「明日までいても不毛じゃん。」
とても納得した。そうだ、今日話して楽になってしまう。そこからは時間がかからなかった。1人横たわっていたベッドから、彼女が座るソファーへと移動し、彼女の名前をよんだ。
「〇〇、、。」
声が擦れる。聞こえていないのか、聞こえなかったふりをしたのかわからなかった。深呼吸して、もう一度、いつもの名前で呼んだ。
「〇〇ちゃん、、」。
そのまま、1呼吸おいてついに宣言した。
「別れよっか。」
人生で初めて別れを告げた瞬間だった。彼女は一瞬驚いた顔をしたが、そのまま、1呼吸置いた後に何度もゆっくりうなずいた。言葉はない。沈黙が流れる。
「多分、お互い合ってないと思う。」
私のその言葉に彼女は「そうだと思う。。」と呼応した。そこからは止まらなかった。ラインが非表示だったこと。最近態度がおかしかったこと。前に言われた「結婚はいいかな」「1人で生きてく」という発言。すべてが自分の中で結びついたことを話した。
「だから最近あなたに冷たくしてた。」
彼女の声がまた流れた。すでに彼女の中では決まっていたことだった。どちらから先に言いだすかの問題だった。そこからはあまり覚えていないが、彼女の大好きだったところ、尊敬するところをたくさん言った気がする。
向上心が高く、努力家で頑張り屋なところ。家族や甥っ子を大事にしているところ。料理がとても上手なところ。感性豊かで独創的なところ。自分で自分の機嫌を取れるところ。彼女の家の家具、レイアウト、色合い、道具、ファッションセンスがとても素敵だったこと。たまに子供っぽいところ。ふとした笑顔と横顔がとても愛おしかったこと。本当に好きだったこと。愛していたこと。そして、大事な人だったこと。
最後に、ありがとうと手を握り、ハグをした。優しく軽いハグを返された。その軽さを感じて、ああ、もう終わりなんだなと実感した。
24時になった。魔法は解けた。荷物を詰めて、いよいよ玄関を出ようとした時、玄関まで来てくれた。
「いままでありがとう。」
手を振りながら扉が閉まった。いつもはすぐに鍵が閉まるのに、その日は階段を下りきるまで鍵の音が聞こえなかった。
約8か月の短い恋であったが、素敵な恋だった。結婚も考えていた。ただ、合わないと考え始めていたのも事実であった。なるべくしてなったと思う。
もう、会うことはない。ただ、彼女の幸せを願うだけである。
彼女の貴重な30代の時間を、自分と一緒に過ごしてくれて感謝しかない。
将来、彼女の夢である「いつか自分の料理教室を開くこと」が叶うことを心から願っている。