羽音
鉄の蜜蜂 を注文した。
岡井 隆さんの歌集だ。私は短歌を詠まないし、明るくもない。
今年の夏、岡井さんが亡くなったと新聞記事が報じていた。
いやあ彼らの立つてゐるあの場所こそが荒野なんだと知らないのかい
新聞記事(日経,2020,7,12分)に、「鉄の蜜蜂」からこの歌が引かれていた。今私は、手もとのメモを見ながらこれを書いている。広告の裏をスマホほどの大きさに切った紙に、ボールペンでこの歌を書き留めたのだ。夏から今までずっと、テーブルの透明クロスの下に挟んでいた。
記事でこの歌を知って、その日何度も何度も声に出してみた。そうせずにはいられなかった。自分の声が頭蓋で振動し、口からこの歌の音を発するのが、心地良かったのだ。
昨日、風景の一部になっていたこのメモに目が行き、また、口にしていた。メモはテーブルから回収され、私の机の積み上がった本の上にふわりと登る。
言葉を丁寧に紡ぎたい と 渇きを覚える。
ああもちろん、目で追った時の、文字達の並びの格好も、好きだ。
文字達は嬉しそうに、胸を張って並んでいるから。
鉄の蜜蜂は私を目指し、私の指は言葉達をまさぐる。
小説家ですと言えるようになったら、いただいたサポートで名刺を作りたいです。後は、もっと良いパソコンを買いたいです。