домой

僕のロシア語の先生が語ってくれた印象的な「旅」の話。

シベリアでソ連軍と戦った先生の伯父は抑留されることになった。抑留された日本人たちはдомой「故郷へ」を合言葉に必死に生き抜こうと励まし合っていた。

終戦から数年後、先生の母親の夢枕に伯父が現れた。伯父は出征時に着ていた絣の着物を着ており、仏壇に吸い込まれていったという。

数年後、抑留者たちが帰還した。伯父の戦友が先生の実家を訪ね、シベリアでの死亡を伝えてくれた。墓を建てたが、いつ亡くなったか正確に分からず、母親の夢枕に現れた日付を彫った。

さらに数年後、シベリア抑留者の資料がロシアから日本に寄贈された。先生の叔父の資料も送られてきた。それはカルテであり、チフスを患った伯父が受けた治療の過程が記されていた。そこに記されていた死亡時刻は、

「昭和22年2月3日午前3時3分」

それは先生の母が伯父を夢で見た日であった。
伯父はдомойを果たしたのである。