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森暮らし日記 を始める
2022、12、7
そうして本の影響を顔面まともにくらって、
見るもの考えることが「売れないもの書き」のそれになっている。
当時の人が価値とも思わず書き残した日記が後々、
タイムマシンとして尊ばれるのを参考に
自分には普通である日常を書いてみよう。
8年前、電気水道ガスがない小屋から始まった森暮らしは
今の時代の人にとっても横飛びのタイムマシンになり得るかもしれない。
夕方、散歩。
月の映った泥水を飲んだ。犬が。
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郵便が届いたと連絡があり、森を歩いて取りに行く。20時。
外に出たら思いのほか明るく、木々の影が濃い。
月のない夜も、灯りなしで森を行くのが好きだ。
五感を作動させて1歩ずつ暗い道を探るのは、
文明で失いかけた何かを取り戻せそうで、頼もしい。
以前、暗闇から私が野菜の荷車を引いて現れて、友人が驚いた。
薪ストーブと湯たんぽで暖をとりつつ、夕食と読書。
夫は演奏を頼まれて出かけている。
最近は友人がくれた廃材を切って薪としているが
日々拾う枝が燃料の大半だ。
我々は倉庫ではなく森に薪を蓄えているね、と散歩の時に話した。
「私の財布は宇宙で、必要な時に取り出す」と言う
無職の友人の言葉が重なった。
人気の店を閉じ、今や旅が住処となった。
風に行き先を尋ね、年に2、3度ふらりと我が家を訪れる。
「こんな森に隠れられたら、旅に出なかったかもしれない」
前回、彼女が言った。
押し寄せる文明に疲れた人が、静かさを求めて旅に出る
明治の頃に漱石が言った。
と、昨日行った温泉の壁に書かれていた。