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好きな○○シリーズ「私の放送を語る」

 

 NHK杯全国高校放送コンテスト。通称Nコンが今年は中止らしい。

 

 放送部に所属する高校生なら誰もが目指す頂、それがNコン。

 私も例外ではなく、高校時代は「今年のNコン何出そう…シナリオシナリオ…」と打ち込んでいた。といっても、私の場合は、「タダで東京に行ける!」という特典に目がくらんでいたわけだけれども。というわけでたまには好きなものについて書いてみようと思う。今回は、「放送」の魅力。


 

 私が放送部に入ったのは高校からで、中学では吹奏楽をしていた。そっちはそっちで奥が深いのだが、高校では勉強と両立できそうな部活がいいなと思い、うちの高校ではそこまで忙しそうではなかった放送部に、友人に誘われ入部した。1学年に3、4人程度の小規模な部活だったけれど、職員室横の部室は隠れ家のようでこっそりみんなでお菓子を食べるような、あたたかい部活動だった。


 入部後すぐに行われる大会がNコン。夏前に県大会が行われ、上位者が全国大会へと進む。初めての大会で私はアナウンス部門に出場した。

 アナウンス部門では、出場者自身が台本のネタを取材し、取材した内容を文章にまとめ、1分30秒の時間制限の中で発表する。購買部のおばちゃんに取材した私は緊張しながらも原稿にまとめ、練習を重ね、大会に出場し、初めての経験を無事終えたのだった。(終えたのだ、何も言うなよ)

 私の県だけなのかもしれないが、大会前には「講習会」が行われる。集まれそうな高校に声をかけ、県内の放送部員が集まってみんなで練習をするのだ。強豪と言われる学校、とっても話すのが上手な人、不思議な先生、他校の前で評価される感覚は、怖くもあったが新鮮だった。


 2年に上がると、他部門にも挑戦した。

 放送の界隈では大まかに、「読み」の部門と「番組」の部門に分かれる。読みの中では先述した「アナウンス」と、課題図書の中から好きな場面を選び読み聞かせる「朗読」。番組の中では「ラジオ」と「テレビ」、その中でも取材をして実際の出来事を番組にする「ラジオドキュメント」、脚本を書き、演じる「ラジオドラマ」、そして同じように「テレビドキュメント」、「テレビドラマ」の部門が存在する。

 これだけでも大分、放送という世界の奥深さが伝わるのではないだろうか。「放送部」といえば「=アナウンサー」と脳内変換される方もいると思うが、侮るなかれ。番組は熱いぞ。


 

というわけで、2年に上がった私は、2年目のNコンで「朗読」と「ラジオドラマ」に挑戦した。朗読に変えた理由は、私の声は低く、アナウンスにしては落ち着きがあるため、朗読の方が向いているのではという先輩の助言から。話がすっと入ってくるような高く通った声の方は、アナウンスに多く、低く、特徴的な声をしている方は朗読に多い。

 そして、ラジオドラマ。おそらく「カメラワークとはさっぱりわかんねぇからとりあえずラジオ!んで、ネタ集めるのは面倒だから創作できるドラマ!!!」という不純な動機からだろう。うちのような小規模の部活ではオーディションもないため、好き勝手に作品をつくることができた。

 というわけで脚本・監督(文面ではかっこいいな)を担当し、7分のラジオドラマを作成した。7分と聞くと短いように感じるが、作り上げるのに短くても大体2か月かかる。

 脚本を書くのはしんどい。とにかくしんどい。日常生活のあらゆる要素がすべてネタにできないかという思考になる。「これはいける!」と思っても、平井堅似の毒舌オネェ顧問に「却下。」と切り捨てられ、毎回50個ほどのネタが捨てられた。

 結果完成したのは、未来の自分と繋がるSF?学園ものだったわけだが…我ながら「どんな趣味だよ」と思う。それでも友人の編集技術が功を奏し、県で3位になった。わが部活では久々の全国行きだったこともあり、結構いい感じだったわけだ。3日間の東京旅行…じゃなくて全国大会は、なかなかいいホテルに泊まり、顧問の眼を盗んで、こっそり友人と深夜徘徊しながら東京の街を歩いたのだった。ちなみに番組部門では、1作品につき2人、東京に行くことができる。みんなでプチ旅行をしたわけだ。


 

 なんだかんだいくつかの大会を経験し、宮崎の大会では辛口外食審査員の顧問とともにチキン南蛮に感動したり、講習会ではデータが吹っ飛び他校のさらし者になったりしながら、次第に放送部としての誇りのようなものが生まれていったのだった。


 

 3年の最後の大会は、忘れられない。

 今回もみんなで「東京に行くぞー!!」と張り切ってラジオドラマに取り掛かるわけだが、肝心の脚本ができない。「ワタシ、シナリオ書けないヨ、思いつかないネ、、、」という状態が締め切りの2週間前まで続いた。

 脚本ができて、キャストの音声を録音、効果音とBGMを入れ、7分以内に収まるように調節、これらの編集の時間にだいたい1カ月かかる。

 本当にピンチだった。今でも忘れられないが、放心状態でひたすらネタを考え、文字通り泣きながらシナリオを考えた。

 

 「進路に悩む高校生が電車に乗ると、それは不思議な電車で…?」

         いやつまりはどんな電車だよ。

「しゃっくりを100回したら死ぬと信じている高校生が100回しゃっくりするまでに自分がしたかったことをやり尽くす話」

      突っ込みどころありすぎるだろ。前提からおかしい。

 

 こんな恥ずかしいシナリオも毒舌顧問に披露しながら、ようやく思いついたのが、「ゲーテ」だった。

 小説家を目指す女の子。ゲーテをこよなく愛し、ゲーテの名言集を持ち歩いている。しかし、作品が評価されることはなく、いつも言われるのは「感情が伝わらない」。

 そんな彼女と出会うのが、彼女とは真逆の体育会系男子。剣道部に所属する彼は、部長としての責任に耐え切れず、大会中に倒れて一時休部しているのだった。彼らが出会い、自分がなぜ小説を書き、剣道をするのかを思い出すという、まぁ単純なストーリーなのだが、結構気に入っている。

 場面場面にでてくるゲーテの名言や、「なんでやってるかって?好きだからだよ。」という主題も嫌いじゃなかった。編集担当の友人に急ピッチで編集してもらい、完成させた。結果、県大会では優勝することができた。最高に嬉しかった。大会では、番組部門は大会以前に審査会が行われている。そのため、当日すぐに講評のみが配られ、作品上映会が行われる。

 それでも、他校の学生が自分の作品を聴いて、ゲーテを愛する主人公の発言に思わず笑ってしまったり、感想を話しているのが聞こえる時間は最高に嬉しかった。

 そして全国に進んだ。残念ながら全国で結果は残せなかったが、とても満足していた。「彼と彼女とゲーテと」。この作品は私にとってかけがえのない作品。私の最後のラジオドラマ。こうして私の放送部生活は幕を閉じた。



 長々と自慢話のようなものをしてきたが、ノリで入った放送部の奥深さを知れたことは私にとってかけがえのない財産だ。効果音を録るために学校中を歩き回ったことも良い思い出。剣道部男子役の男の子に「吐息、録音したいんだけど」と言って引かれたことも良い思い出…のはず。


 少しは魅力が伝わっているだろうか。とっても怪しいけれど、来年のNコン入賞作品が夏にNHKでも放送されるので、ぜひ録画してみてほしい。高校生が情熱をかけた作品は、想像以上に凄まじく、感動の嵐だ。

 面白いよ、放送って。

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