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趣味は「映画と読書と音楽」と言っても良いですか? vol.254 読書 グレッグ・イーガン「プランク・ダイヴ」

こんにちは、カメラマンの稲垣です。

今日は読書 グレッグ・イーガンの「プランク・ダイヴ」についてです。


現代最高峰のSF作家の一人であるイーガンの短編集。

「万物理論」「しあわせの理由」以来自分が読んだイーガン作品の3冊目。

イーガンのイメージは専門的な最新テクノロジーの知識に基づいたハードSFで、難解だけど話はスリリングでアイディアに溢れてめちゃくちゃ面白い。

ただ数学や物理学や量子力学やコンピューターサイエンス、医療、生化学などあまりにも専門すぎて、ほとんどついていけませんw

ただその専門的な話は理解できないのに、理解できないけどリアリティは感じられ、妙に納得感がある。

そして根本的な部分はシンプルで、けどアイディアは常人では考えられないほど面白い。

この短編集に出てくる、ブラックホールやAIや数学論や生物学は本気に最新学説を書かれたらちょっと理解することは難しい。でもイーガンのお陰でその魅力を感じられるのはとても良いことのような気がします。

読み終わった後、なんだか最新学説を少しわかったような錯覚に落ちます。

SFは大好きですが、大体ロボットや宇宙が出てくる普通の物語ですが、イーガンはその味付けのサイエンスの部分がかなり本気というところでしょうか。



物語は、第一話「クリスタルの夜」
新しい結晶ベースのプロセッサを使い、そこでバーチャルな世界を作り、バーチャルな生物を作り、それを超高速に進化させ、知的生命を作り出そうとする話。

第二話「エキストラ」
自分のクローンに脳を移植して新たな肉体で生まれ変わり、不老不死になる話。

第三話「暗黒整数」
多次元の平行宇宙同士で数論を使って戦う話

第四話「グローリー」
極小の宇宙船を星まで送り、現地調達した分子で、その星の人間を作り、その星の国へ潜入して、数学を究めていて絶滅してしまった人種のタブレットを解読する話。

第五話「ワンの絨毯」
人類は肉体を捨てAIになっていて、自分達の千のクローンをそれぞれ宇宙船に乗せて、千の方角へ旅立たせた。そのうちの一つが生命体を発見した知らせがくる。巨大な一つの分子の藻類だった。

第六話「プランク・ダイヴ」
ブラックホールに実際に飲み込まれて観測しようとする計画。その計画を実行する人間の前に物語学者の来客があった。

第七話「伝播」
近未来、恒星の惑星に探査機が打ち上げられた。
主人公たちはその計画の技術者。
120年後、関係者は死んでいるか、AI化しているが主人公は肉体のまま老人になっていた。
そこへ探査機が到着した惑星に行ってみないかと提案がある。



と、割とハードSFの内容だが、本格的な専門用語が並び理解が難しい。

けどあらすじを書いたように、話自体は割とわかりやすい。

なのでブラックホールや高度な数学理論がわからなくても、雰囲気だけ掴んでいれば楽しめるような気がする。

もう理解しようじゃなく、どんどんその本格的な雰囲気を楽しむだけで良いと思います。

そして最新テクノロジーに触れて、この小説が提示する、「人間が生命を作り神になったら、その生命をどう扱うか」とか「クローンを作りそこへ脳移植したら、オリジナルは脳を移植した方なのか、肉体は関係ないのか」とか「人間が想像する宇宙と、異星人が考える宇宙は違うのか」とか、いろいろと考える良いきっかけになりますね。

半分以上、八割方、難解な専門用語のイーガン。けど本物の持つリアルな納得感。
理解できなくても読めば絶対面白い。

イーガンは卓越したストーリーテーラーです!

今日はここまで。



イカットは足を止めて、祝杯をあげる真似をした。「来たるべきすべての世代の人々が、自分では完成させることのできないなにかを、はじめられますように」
/P.393 「プランク・ダイヴ」より