宮本昌孝『藩校早春賦 』

宮本輝の『青が散る』や佐藤多佳子『しゃべれどもしゃべれども』、村上春樹の『風の歌を聴け』『ノルウェイの森』、村上龍の『69』、金城一紀の『GO』といった青春小説が好きなのだけど、石田衣良の『池袋ウエストゲートパーク』をおもしろく読んでいた時に、ふとその限界を感じてしまったときがありました。

青春小説では青春小説ゆえに若者ならではのまっすぐな感じや、瑞々しさ、不完全さを描くのだけど、現代を舞台にすると彼らがまっすぐであるための目的を持たせるのが難しいと思ったのです。

だからどちらかというと『青が散る』や『風の歌を聴け 』『69』は若者特有のもやもやした感じがメインでした。

そして、『しゃべれどもしゃべれども』や『GO』は目的は持っているのだけど、主人公がもつ特異性(落語や在日というアイデンティティ)があって成立する青春でした。

ぼくは上に挙げた本は全部大好きだし、どれも愛しているのだけどもっと普通の若者が生きていく青春小説を読みたいと思ったのです。

そんなときに出会ったのが宮本昌孝さんの『藩校早春賦 』(集英社文庫) でした。

『藩校早春賦 』はスーパーヒーローではない江戸時代の普通の若者たちが悩んだり笑ったり、でもまっすぐに生きようとしていました。

今なら清廉な若者自体が不自然に見えてしまうけど、江戸後期の彼ら若者たちはそう生きることが当たり前なのです。

それがすごく自然に描かれていて、ぼくもそのまま読むことができた。
内容はほとんど忘れてしまったのだけれど、「真っ当は青春小説はここにあるじゃないか!」ってすごく驚いた。

現代では描きづらい青春や恋愛や理想や正義を時代小説は正面から描けるじゃないか!って目からウロコが落ちました。

何かいい青春小説ないかな?とお探しの方にぜひおすすめしたいです。


20100909

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