大人になれば 01『さいきん好きなこと・NHKラジオ第一・山田風太郎』
最近、ラジオが好きになった。
FMじゃなくてAMだけど。しかもNHKラジオ第一だけど。
FMがけたたましい居酒屋だとしたら、NHKラジオ第一は茶の間だ。
空気がすごーくのんびりしてるし、なんだか自由だ。
しかも時折アナーキーだったりする。国営放送なのに。
でも、ほんとうは公共放送っていうらしい。ぼくは国民放送って呼べばいいのにって思うけれど。それはまた別の話。
アナーキーの話だ。
AMラジオでは政治問題や原発問題も「腰すえてやるぞ」という気配が番組から感じる。
出演するゲストも、「ここならちょっと本当の話をしますよ」っていう空気がある。なんでだろう。ぼくはたまに考える。なんでAMラジオはできて、新聞やテレビはできないんだろう。できないって本人たちが思っているだけで本当はできるんじゃないだろうかって思ったりもする。
深夜三時くらいに昭和二十年、三十年代の歌謡曲がばりばり流れるのもしびれる。考え方によってはこれだってアナーキーだ。若者なんか目にも入れてませんときっぱりした態度がいかしてる。
十月の深夜四時、珍しくポップな曲が流れて、それがなかなか良くて誰だろうと思ったらアグネス・チャンだった。『ポケットいっぱいの秘密』という曲。作詞は松本隆。なるほど。
そんなわけで通勤の朝はいつもNHKラジオ第一を聴いている。
とくに金曜朝の『すっぴん!』という番組に出る高橋源一郎が好きなのだ。
未読にも関わらずどうにも気になる作家で、「いつかはきちんと読まねばならない」と思っていたが、ラジオでも何というか「ひと味もふた味も違う」感じがして嬉しかった。
手元にある彼の著作、『「悪」とたたかう』を自分がいつ読むのか。そのタイミングを楽しみにしている。そういえば宮崎駿はこの本を読んで講談社に電話し、「よかったとお伝えください」と言ったらしい。どこかで読んだ。いい話だ。
先日は生まれて初めて、ラジオを聴いたその足で本を買いに行った。
高橋源一郎が紹介する本を聴いていたらぐんぐん惹きつけられ、読みたくて読みたくて堪らなくなった。彼の紹介も熱がこもっていていいのだ。
ぐらぐらと沸いた鍋の蓋からたえまなく蒸気が漏れるように、「この本が好きだ!」という感情がラジオからあふれてくる。テレパシーか。
長くなってしまった。
この連載は冗長なるを良しとするからいいのだ。
紹介されたのは山田風太郎の『人間臨終図鑑』全三巻。徳間文庫。
ウェーバー、石川啄木、吉田松陰、モーツァルト、ロンメル、魯迅、ダンテ、ニーチェ、泉鏡花、内田吐夢、ハイドン、釈迦、ゴヤ。
この本は世界中の死にざまを集めている。一人につき短くて一ページ、長くて数ページなので、どんどんどんどん人が死ぬ。
覚悟した死も驚くべき死も非業の死も孤独な死もあらゆる死が数枚の中で展開される。死の図鑑だ。まさに。
どこが良いかを述べるのは難しい。でもこの本は確かにすごい。読んだら止められないし、読んで本を閉じるたびに何かが残ってる。残響のようなものが。
最後にルノワールから引用を。
晩年、リューマチに苦しんで「見るも無残なありさまだった」と評される彼はそれでも描くのをやめず、厚手の包帯で包まれた人差指と親指の間に絵筆をさしはさんでもらい、苦痛にゆがむ手で描き続けていたらしい。以下、『人間臨終図鑑』三巻P175から引用。
ときどき戸外に運び出してもらうと、彼は「畜生、なんて美しいんだ! くそっ、なんてこの世は美しいんだ!」とさけんだ。
執筆:2013年12月12日
『大人になれば』について
このコラムは長野市ライブハウス『ネオンホール』のWebサイトで連載された『大人になれば』を再掲載しています。
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