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大人になれば 48『タモリ倶楽部・一年分・不定形』

一年も終わります。あと半日で。わお。
十二月は仕事ばかりしていて。帰宅して本を読むこともなくベッドにバタンの日々だったのだけど、ベッドでとろとろしながらYouTubeでタモリ倶楽部を見るのが楽しみの一つだった。何でだろう。気持ちが安定するような。

タモリ倶楽部、すごいです。今さらだけど。
「偏愛」「異端」を面白がる姿勢のブレなさが素晴らしい。
今、ぼくのYouTubeの履歴をみるとタモリ倶楽部がずらりと並ぶのだけど、中でも大好きになったのが二〇一一年放送の『魂の叫びを聞いてくれ!勝ち抜き歌ヘタ合戦』だった。

いわゆる「何でこんなヘタな人をレコードに」というようなレコードの紹介なのだけど(コレクターがちゃんといる!)、何枚も聴いているうちに妙に胸を打たれてきてしまう。
特に『キング・ユースネヴィチ&ヒズ・ユースネヴィチトーンズ』の疾走してるのか失速してるのか分からないロックンロールと、『ザ・シャッグス』の磁力のような呪術のような魅力にくらくらして。
見終わった後にもっと聴いてみたい、もう一度聴いてみたいという気分になる。不思議だ。

今年もあと八時間。せっかくなので今年一年分のブログを読み返してみた。時間にして三十分。さすがに全部読み終わったらちょっとクラクラした。

一月 鶴見俊輔の言葉とヤルタ会談(演劇)/自己責任
二月 衝動について
三月 世界との接続と伝えること/恐怖症とその甘美さについて
四月 西ちゃんの戯曲について(演劇)/言い表せないもの(本)
五月 角居さんの作品展/我が星と積み上げられたレンガ(演劇)
六月 ブラックホールと消滅/唐組の透明人間(演劇)
七月 cocoon(演劇)/わに(The End)について
八月 The Endアルバムとスーパーネオン/書けないこと
九月 カナリア(演劇)/パレスチナについて(本)
十月 ささやかだけど、役にたつこと(本)/匂いと記憶について
十一月 四色定理のセブンス・コード(演劇)
十二月 地球と月について

今まで通りのような気もするし、本について書くが少なくなったなとも思う。演劇についてが少し増えて、映画をほとんど観ていないことに気づく。

思い出してみたら、今年は映画を『駆け込み女 駆け出し男』『ザ・トライブ』『バードマン』『ギャラクシー街道』しか観てなかった。一年で四本。ちょっとびっくり。『セッション』も『ジャージー・ボーイズ』も見逃していた。ああ。

一年通して、世界(外部)についてどう捉えればいいのかもやもやと書いているのは相変わらずで。
十二月に『今を生きるための現代詩』(渡邊十絲子)という本を読んだ。とても面白かった。まるでこの本一冊が詩であるかのように、どう面白かったと言い表すのが難しいのだけど。

こんな言葉が印象的でした。

「人は変わっていくもので、不変の自分というのはときに有害なフィクションである」
「すべての人には「まだわからないでいる」権利がある」

作者の渡邊さんが男性と女性の詩人について触れている箇所があって。
男性詩人は世界を自分の外にあるものとして捉え、世界と対峙し、描写しようとしているのに対し、女性詩人は世界と自身を分断して考えない。むしろ自分という輪郭は不定形なものであり、場合によっては世界と溶け合うことも描くと。

何かを物語るのに男性と女性という手法はあまり好きではないし、普段なら「ふーん」と通り過ぎるところなのだけど、自分の輪郭が不定形なもので世界と溶け合うなんて日々の中で考えたこともなかったので深いところで印象に残った。

不定形。
どうもこの一年は形のないもの、見えないものに魅かれていたような気がする。言葉にできないけれど、確かにそこにあること。何かしらの手触り。形のないものを表出すること。受け手側の中で像を結ぶこと。揺さぶること。そのための何か。

今年はそんなことをぼんやり考えながらいろんなことを眺めていたようん気がします。面白がったり、不思議がったり、感動したり。
形のないものを。
『今を生きるための現代詩』で紹介されていた作者が中学生の頃に出会ったという「詩」もそんな気配がします。

25 世界の中で私が身動きする=230
26 ひとが私に向かつて歩いてくる=232
27 地球は火の子供で身重だ=234
28 眠ろうとすると=236
29 私は思い出をひき写している=238
30 私は言葉を休ませない=240
31 世界の中の用意された椅子に坐ると=242
32 時折時間がたゆたいの演技をする=244
33 私は近づこうとした=246
34 風のおかげで樹も動く喜びを知つている=248
35 街から帰つてくると=250
36 私があまりに光をみつめたので=252
37 私は私の中へ帰つてゆく=254
38 私が生きたら=256
39 雲はあふれて自分を捨てる=258
40 遠さのたどり着く所を空想していると=260

今年もありがとうございました。
来年もよい一年になりますように。

執筆:2015年12月31日

『大人になれば』について

このコラムは長野市ライブハウス『ネオンホール』のWebサイトで連載された『大人になれば』を再掲載しています。


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