大人になれば 60『NKT・ねこ先生・大晦日』

今年もあと二日です。
すごい。
一年たったという実感が全然ない。
ごろごろしたい。

鍋を食べながらコタツでごろごろタモリ倶楽部を観たい。
鍋・コタツ・タモリ倶楽部。
NKT。
なんて魅惑な響き。NKTシャツも欲しい。

ねこ コタツあるのか。
ぼく わ。ねこ先生。久しぶりだね。
ねこ コタツはどこだ。
ぼく ぼくの家にはないよ。ヒーターだけ。
ねこ コタツはどこだ。
ぼく えー。角居さんの家にはあるよ。
ねこ そうか。
ぼく ねこ先生もNKTシャツほしい?
ねこ いらんな。問題はコタツだ。
ぼく ふーん。あ、そういえばさ、この前すごく大きな上弦の月を見てね。大きな目がぼくを睨んでいるみたいで。星が出ていない夜空だったから、まるで大きな黒豹みたいだなーって思いました。
ねこ 黒豹だぞ。
ぼく え、そうなの!
ねこ 夜の世界は猫科が覆いつくしているからな。
ぼく そうなんだ。ねこすごい。
ねこ まあな。
ぼく ねこ先生は夜を覆わなくていいの。
ねこ コタツの中にいるからな。
ぼく 覆われてるじゃん。コタツに覆われているじゃん。
ねこ 入子構造の真ん中にいるのだよ。
ぼく まじ。
ねこ 世界の中心です。
ぼく すごい。コタツは世界とつながっているのか。
ねこ コタツは、世界と、つながっています。
ぼく なんで区切りながら言うのさ。そうそう、それでね。そのとき月の呼び名を調べたですよ。上弦とか、下弦とか。
ねこ 朔とか。望月とかな。
ぼく そうそう。そしたらけっこう知らない呼び名があって。へえーって思いました。ぼくは月の始まりと終わりにある猫の目みたいな細い月が好きなんですど、繊月と呼ぶって初めて知りました。呼び名もいっぱいあって。
ねこ 三日目の月はいろんな名称があるぞ。眉月、始生魄、哉生明、朏魄、磨鑛、彎月、初月、若月、虚月、蛾眉、月の剣、三夜。まだまだある。
ぼく 詳しいねえ!
ねこ 夜は猫の領域だからな。
ぼく おお。なんかすごい。三日月にこんなにいろんな呼び名があるってことは、昔の人も細い月を印象的に見てたんだなーってなんか身近に感じて。
ねこ 肉眼でほぼ初めて見える月だからな。三日月を新月と呼ぶ時代もあったんだぞ。
ぼく わ。本当に詳しい。蛾眉(がび)を調べてみたら「蛾の触角のように細く弧を描いた美しいまゆ。転じて、美人」って書いてあって。蛾の触角が美しいって捉えられてたんだなーってちょっと驚いたよ。
ねこ 今みたいに線や形が自由自在じゃない時代だから、身のまわりの美しい曲線は印象的だったんだろうな。
ぼく ああー。そうか。それはあるかも。「あの人、蛾眉だなあ」って見惚れたりしてたんだろうなあ。
ねこ ねこは何といってもヒゲだけどな。
ぼく あ、そうですか。
ねこ ヒゲの美しさが分からなくて何が人生か。
ぼく おお。
ねこ さ、もう行くぞ。自分がコタツに入らないことには晦日が形にならん。
ぼく わ。年越しもねこ先生にかかっていましたか。
ねこ 世界中の猫が夜と時間を形にしてるのよ。
ぼく え。それはたいへんおつかれさまです。今年もありがとうございました。来年もよろしくお願いします。
ねこ うむ。こたつこたつ。(角居邸に向かう)

今年もありがとうございました。
皆さん、よい一年を。

20170106

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