原罪の逆転劇
二人っきりになると、会話しなければいけないという強迫観念に近い感情が生まれてくる。
だから、美容院に行くのが嫌いである。みんな、いつから美容院へ行くようになったのだろうか? いつから初対面の人と二人っきりになることが平気になったのだろうか? そんなコミュニケーション能力をみんなが身につけているのかと思うと、自分だけ置いてけぼりされたような気がした。あんまり親しくない人とも、集団でいればなんとかやり過ごせるし、そんなコミュニケーション術はなんとなく身につけていたけれど、それでも、二人っきりとなると、すぐさま異次元の領域になる。居酒屋とかで、いきなり二人っきりにされるのが本当に嫌だ。いきなりトイレに行ってしまう人を恨みさえする。それまで相槌とかでなんとかやり過ごしていたことがバレないように会話しようとするけれど、なんとなく居心地が悪いし、たぶん相手だって同じようなことを思っている。そんな状況を切り抜けるだけのコミュニケーション能力がほしいけれど、みんなどこかで練習しているんだろうか? カラオケへ行っても、みんな歌が上手いけれど、もしかしてこっそり練習でもしているんじゃないか、と疑ってみる。いや、もしかしたら、人間にはそういう能力がもともと備わっているんじゃないか、とさえ思う。そんな人間でも、二人っきりになりたい、と思う瞬間が来るんだろうし、そういう瞬間を感じるために、二人っきりになる気まずさがあるんじゃないかと思う。