鏡の中の私、私の中の風景
いつもと同じ風景を彷徨うことで、私自身を確認してゆく。鏡を見るだけでは何者なのか分からなくなっていたあの時、見覚えある風景だけが私を繋ぎ止めてくれていた。肉体や精神さえも信用できないこの世界で、あの風景だけが私自身を証明してくれていた。他人から見た私が、私ではないという事実に気づいた時、この世界には誰も生きていないことを知った。正しい人間なんていないのだ、間違った人間しかいないのだ。自分自身さえ、間違った人間なのだ。永遠に正しい自分にはなれないことを知っている。だから、せめて別人になりたい。異国への憧憬の眼差しを持ちながら、あの地へ踏み入れるだけで、別人になれると思っていた。けれど、そこにいる私はいつもの私だった。私が通用しないことがこんなにも疲れるならば、いつもの私のままでいい。間違った私のままでいい。永遠に間違いながら生きてゆく。あの風景を彷徨いながら生きてゆく。