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忘却の真髄

誰もが名前を持っているけれど、ほとんどが無名のまま死んでゆく。

無名なんていやだ。有名になるため生きているのであって、忘れられない人間になるため生きているのです。そう確信していた時がある。なんで、みんな有名人を目指さないんだろう、と思っていた時がある。有名人イコール忘れられない人、という発想自体が幼稚なのは知っているけれど、それでも有名を追い求める人間とはなんなのでしょう? 一人の人間を忘れてゆくし、一人の人間に忘れられてゆくのに、誰にも忘れられない人間を目指すなんて、なんて傲慢なんだろうか。そんな人間を生きてみたい。誰かの無名にもなりたいし、誰かの有名にもなりたい。こんなやつどうでもいいと思える人がいるから、忘れることのできない人が現れるのです。切り捨てられる人間になりたい。切り捨てられたって、へっちゃらな人間でありたい。俺は有名人になる、と宣言したあの時、お前犯罪者になるの?と冗談のように返されて、それも有名人になるのか、と落胆した。新聞に載ること、ラジオで話すこと、ニュースで報道されること、雑誌に掲載されること、映画に出演すること、それは有名になるということなのだろうか? そんなのどうでもいい。その時代の有名人なんて、数人にしとけばいいのだ。歴代の徳川将軍なんて覚えていないし、歴代の天皇すら覚えていないんだから。有名人が多いから、歴史なんて嫌いになるんだ。死んだやつなんて、みんな無名人にしとけばいいのだ、と忘れられない先祖を念う。

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