掌編いろは/わ「輪」

 猫は前足で鏡に丸を描き、中央を軽くつついた。
 とたん鏡面にリングがひろがり、色も赤、白、黄、青ときれいなグラデーションを見せた。
 赤いブーツをはいた黒猫はそのふしぎな丸を見てうなずくと、帽子を脱いで仰々しくおじぎをした。
「さあどうぞお入りください」
 意味ありげに牙を見せて笑った猫を、ぼくはいつまでも忘れることができなかった。