奪還

 顔も名前も知らない大勢の仲間と一緒に、森の邸宅を訪れた。ここの女主人は旧友の知り合いなので、旧友の名を出すとすぐに門が開いた。整えられた庭を横切り、玄関前に人が立っていた。細身でこれといった特徴のない顔の女主人だった。
 客間に通され、招かれた客人たちにお茶が振舞われた。彼女は「あの人の友達なら私の友達だから」と言って、貴重な菓子まで並べてくれた。やさしい笑みはまるで親友を見ている目つきだ。
 しばらくして、何か思いついたように女主人が中座した。なにか取りに行くらしい。
 今だ。
 目配せするなり、全員で客間を探査しはじめる。
 今回の目的は女主人ではなく、奪われた旧友の「ココロ」を取り返すこと。客人を人畜無害の顔で招き入れ「ココロ」を抜き取る女主人は、一部の界隈では有名だった。妖魔の類か確認しに行った旧友は「ココロ」を奪われて帰還したのだ。持参したはずの武器がなかったので、退治を試みた結果だったと思われる。だから今は退治せず、「ココロ」を解放するのが先だ。
‘あった’
 見つけた。
 引き出しの奥からジュエリーボックスを取り出す。
 そっと開けると、旧友の「ココロ」が飛び出し、開けられた窓からまっすぐ外へ出ていった。
 よし。
 ジュエリーボックスを元に戻し、気づかれないうちに自分たちも窓から邸宅を脱出した。

 それから女主人の邸宅には行っていない。