観察風景/ミナトシリーズ

 骨董屋で買ったカセットの中身は野外で録音された記録ものらしく、強い風の音の向こうから、二人の会話がかろうじて聞き取れた。

 影だよ。見えるだろ、ほら。
 わかんないよ。
 よく見てりゃわかるよ。あ、また跳んだ。すげ。
 どこどこ。
 あそこだってば。一番もくもくしてるトコ。
 雲ぜんぶもくもくしてるぞ。
 ああほらほら! あそこ!
 いた! あ、くそ。もう雲ん中隠れちまった。お前よく、あんなちっこいのが見えるなあ。
 ヒレの柄までわかるぜ。それにちっこい言うけど、本当はでかいぞ。
 マグロくらいか?
 ばっか。あの高度であのおおきさだ。飛行機くらいあるだろ。
 そっか、そうだな。おー、いったいった。すげえなあ、雲ん中跳ねてるって。
 おう、魚のくせになー。エラはあっても水中仕様じゃないらしいぞ。まずヒレがパラボラの役目をしてて、宇宙線をーーあ、あれ?
 なんだよ、どうした。
 気づかれた。
 え。
 来る。
 それってまずいのかよ。
 逃げるぞ、走れ!
 記録は。
 そんなもん、いいから!
 そんなにあわてなくても……トビウオなんだろ?
 トビウオだよ! でも空にいる奴らは違うんだ!
 なあ。なんかこの音……ロケットかなんかこっち向かってきてないか。
 奴らに決まってるだろう! 空の奴はだいたいが肉食、つまり地上の俺たちは格好の餌なの!
 そういうことははやく言え!
 来たー!!

 ここでテープは切れていた。
 彼らの行く末が気になるミナトだった。

了(20060601)

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ミナト:あえて名前のみのキャラ。それにより外観も声も読み手オリジナル像となります。
本作品は自HPより転載いたしました。
HP「いなくろねっと」http://www8.ocn.ne.jp/~inacro/