10月31日

「といっくあーといー! おかしくれなきゃたべちゃうぞっ」 
「食べるんじゃなくって、いたずらでしょ。お帰り、まいちゃん。どうだった?」 
「うんっ! おもしろかった!」 
「うわ、服にペンキつけられてきたの? 顔まで真っ赤じゃない。待って待って、上がらないで。玄関で脱いでね。床についたら大変だわ。今タオル濡らしてくるから。ペンキ、お湯で落ちるかしらね」 
「ペンキなんてぬってないよ、ママ」 
「じゃあ顔のペイントのヤツかしら……そうそう、いっぱいもらえた?」 
「じゃああんっ」 
「うわ、凄いねえ」 
「すごいでしょ、ママ。ポケットにもはいってるんだよ。ママにみせてあげてもいいよ。ほらみてみて、クッキーでしょポッキーでしょ、ぐるぐるキャンディ」 
「うわうわ、出さないでいいから。これじゃママのポテチは変だったかな」 
「ママ、そんなことないよ。ひろしくんちはベビスターくれた。りゅうくんちはクッキー。でもね、パパがクッキーつくったんだって! うちはママがつくるのに、へんなのお」 
「あはは。ねえ、こんなにいっぱい、どこのお宅からもらったの? お返しとかいいのかしら」 
「えっとね、えっちゃんちでしょ、ゆきえちゃんち、たかくんのおばさんと、ひろしくんち、りゅうくんちにそれから……えっと」 
「それから」 
「スズキさんちにもいった」 
「鈴木さん?! あのおっかないおばあさん?!」 
「ゆきえちゃんがいこうっていうんだもん。でもね、おこってなかったよ。おっきいアメくれた。これ」 
「よかった……。案外いい人なのかしら。あの人ゴミチェックするから、ママ怖くて」 
「それでね、ヤマダさんちにもいった」 
「山田さんなんて近所に居たかしら」 
「チョウナイじゃないよ。りゅうくんちのほう」 
「遅いと思ったら、そんなトコまで行ったの?」 
「でね、ひどいのよママ」 
「酷いことされたの?!」 
「ちがうよ。おかしくれないの」 
「ああ良かった……まいちゃんカワイイから」 
「だからみんなでたべちゃった」 
「怒って、みんなで持ってたお菓子を食べちゃったの?」 
「ちがうよ、ヤマダさん。まいちゃんはちょっとしかたべれなかったけど、みんないたからごちそうさまできたよ」 
「ママ、話がよくわからないんだけど」 
「――くしゃんっ!」 
「あらあら、まいちゃん風邪ひいちゃうわね。さ、ぱぱっとそれ脱いで。お風呂入っちゃおうか」 
「うん。ママ、おかしたべないでよ。ぜんぶまいちゃんのなんだからねっ」 
「はいはい。でも全部食べきれないんじゃないの?」 
「あとでたべるのっ。いまはおなかいっぱいだからいいの。いい、ママはぜったいたべちゃだめよ。だいえっとなんでしょ」 
「食べません。でも、まいちゃん、お腹いっぱいって、夕ご飯も食べないで行ったじゃない。あら本当、お腹ぱんぱん。どっかでご馳走になったの?」 
「ううん。ヤマダさん」 
「お菓子くれなくて怒って食べて山田さんって……まあいいか。あとでゆきえちゃんちに電話してみるわ。早く服貸して。お洗濯しないと。ああもう、絵の具生乾きなのね、べたべたする。血みたいな色……なんか匂いも血みたいね……。いやだ、ずいぶんリアルにできてるのね。これって情操教育にマズイんじゃないかしら」 
「ママ、ぬいだよ。――くしゃんっ!」 
「まいちゃん、お菓子はテーブルに置いておくからね。早く温まってらっしゃい。顔もよく洗うのよ。真っ赤っか!」 
「ママ」 
「なに」 
「あとでチョコたべていい? まいちゃん、ずっとチョコたべたいのガマンしてたんだ。だってヤマダさん、にがくてかたくて、あまりおいしくなかったんだもん。ね、たべてもいいでしょ、ママ?」 


  (2002年10月1日up/2020年5月10日改稿)