ドラマ「地獄ケ淵」
おおきな洋館に住む、とある華族のドラマを見ていた。
遺産相続に人間関係が揺れるなか、一見、無関係の人が死亡する。事件の鍵を握るのは、自分の親友であり令嬢だと、長男の許嫁である主人公が気づいた。そこまでが前回のあらすじ。
次回が最終回なので、前回から今までの泥沼伏線がかなり強引に回収されている。それだけに展開が早い。あれだけこじれた遺産相続問題は笑えるほどすんなり収まった。突如現れた新キャラで解決し、第一話から想像もつかない穏やかな雰囲気になった。新キャラの婚約披露会では、憎み合った相続人候補の全員が笑顔で未来を語り合う。
ふいに長男が顔を上げた。許嫁と妹がいない。使用人に尋ねたら「いつものことでしょう」と交わされ、納得しつつ気にかけていた。
場面が切り替わる。
その許嫁と妹は池の上でボートに揺られていた。妹専属の使用人は無表情でボートを漕いでいく。
いつもの水遊びの場面だが、違うことは、うつろに微笑む令嬢と、主人公が明らかに警戒して腰を引いていたことだ。
令嬢の一言で芦のなかにボートが止められる。ここはふたりの秘密の場所。どこからも見えず、人も来ない。
震える主人公に、令嬢がダンスを誘うように手を差し出した。
「さあ、行きましょう」
「は、はい。でも」
「大丈夫よ。わたくしも一緒ですし」
ついさっきのことを、許嫁は思い出していた。
‘水底へどちらが先に沈むか競争しましょう。ね?’
令嬢の声色に否定は許されなかった。
過去の場面がフラッシュバックする。最初の殺人は水死。別の日では、妹に密かに恋い焦がれていた若い使用人がいなくなった日と、彼女が全身を濡らして帰宅し寝込んだ日は同日だった。
主人公は首を振る。心優しい親友がまさかそんなことをするなんて信じたくない。でも。
言われた通り令嬢と並んで水に入って、ボートに手をかける。足にはなにもつかない、底も見えない深い池だ。ここに一体どれだけのーー。
彼女が楽しそうに微笑んだ。
「先に沈んだほうの勝ちでしてよ?」
ドラマはここで終わり、次回予告の映像が流れる。
「次回最終回、『煉獄地獄』」
はいはいとテレビの電源を切った。