全生命体を守るため
うちの会社の定期会議は合宿の反省会だと思う。床に体育座り状態になり、エライヒトの話を聞かされるだけだ。その夜もぎゅうぎゅうに詰め込まれた会議室の片隅で、聞いていないフリがバレないよう真顔を作り、小さくなって業績報告を聞いていた。
同僚が息を切らして「よう」とすぐ隣に身をねじ込んできた。仕事先から直で来たらしく、背広があちこちすり切れ、泥や草もそのままだ。そっと手をあげて、無事帰還したこと労う。
「ぼろぼろじゃん」
「それがさ。聞いてくれよ」
げんなりする顔に、つい期待する。なかなかいい武勇伝が出てきそうだ。
「相手、吸血鬼だった」
「ぶはっ」
「ひどいよな。部長も先に言ってくれたらいいのに、見ろよ、これ。標準装備でいけるわけないじゃん。相手は闇に生きてるってのに、こっちにゃ暗視カメラもないんだぜ。おかげで崖から落ちるわ、狼は出るわ」
同僚には悪いが、想像するだけで笑ってしまった。
「それで、どーしたの」
「こっちが逃げた。吸血鬼対策なんて誰もしてないぞ。銀製品も持ってないから、近寄ることなんかできないじゃん。で、逃げた」
「おつかれ」
「おう」
「なんかさ。さっき言ってたけど、増えてるらしいよ、吸血鬼」
「じゃあ近いうちにリベンジがあるってことじゃん。げえ」
「だろうな。ホントおつかれさん。わはははは」
世界中の生き物にGPSをつける仕事はけっして楽じゃない。 心臓を持つ生き物から心臓のない生き物まで、すべてが対象。潜んでいる宇宙人や妖精、幽霊にもつけねばならないからだ。おかげでボロボロになるが、こういうスリルが楽しい。しばらく辞められないだろうな。
了