掌編いろは/ぬ「縫い物」
こころがまるで弾けたように破れてしまったら、こころにつつまれていた想いが霧のようにアトカタもなくなってしまう前に縫わなければならない。
針をつかってはいけない。するどい針の突き刺さる痛みに、こころは耐えられないからだ。
やさしくやさしく、眠っているヒナを起こさないような手つきで端々をひきよせるとよい。
穴を手のひらで覆い、あたためるようにするとよい。
同時に子守唄をうたいながらしずかなリズムをささやけばよい。
こころが温度を取り戻したとき、ゆっくり拍動を響かせるだろう。
与えられたやさしさとぬくもりに、こころはまた違うほほえみを見せてくれるだろう。
以前よりさらに深く味わいとやさしさを秘めた想いがそこにあると、あなたは気づくだろう。