新人研修

 研修室。自分を含めて新人数名がおそるおそるテーブルを覗き込んだ。新品の片足だけのスリッパが10種類ほど並べて置いてある。テーブルの向こう側には研修指導員が厳しそうな顔つきで立っていた。
「では実践してみましょう。このなかで一番鮮度がいいのはどれか」
 鮮度……?
「先ほど説明したとおりですが、スリッパはなにより鮮度が大事です。これをよく見極めないといけません。さっき話しましたね。どこで鮮度を見るかーーはい、どこ?」
 冷徹な視線と物言いに怖気づき、指されたほうはおろおろとして答えられない。指導員は明らかにイライラとしていた。
「まったく。こんなことでどうしますか! ほらあなた! スリッパの鮮度を見るところはどこ?!」
 今度は自分の隣の人が指され、おろおろ答えた。しかし正解ではない。
 自分がいつ指されるか怯えつつ、答えを考えていた。
 緑、茶、布、タオル地、竹、プラスチック、シリコン。全部スリッパだ。
 魚の鮮度と同じく「目」と答えるんだろうか。それとも「縫い目」とか。艶や形も鮮度に関係あったような気がする。うーん。
 スリッパの鮮度とは。

「さっき教えましたよね?! 答えなさい!!」