掌編いろは/は「春の恋」

 その年の春は、狂い咲きという言葉がふさわしい春だった。
 つぎつぎに花が咲き乱れ、木々の葉が生い茂り、草原は歌うようにつややかな流れを見せ、あたたかな風には花の甘いかおりと草の苦青いかおりが混ざり、より春を色鮮やかにさせた。


ーー春の姫が待つは雷鳴の君。いとしき彼はいつ姿を見せるのか。


 地上を知らない海の魚たちは、そう噂していたそうだ。