「ふたりのすきな場所」/散文
そうだね。
かくれんぼに向いている場所ともいえるかな。
しずかに感情の波も起こしたくないときには行くよ。
いつもあいつと取り合いになるんだ。黒と銀のしまがきれいな猫。
取り合いといってもけんかはしないけどね。先客に譲るのがぼくらの暗黙の了解。
そうだね。
友達とはいえないかな。
地上種と猫だもの。尻尾のあるなしの違いはあるよ。
いつもあいつと会えるわけじゃない。アメジストブルーの目がきれいな猫。
会えなくてもさみしいわけじゃないけどね。元気にやってるさと思うのがぼくの流儀。
そうだね。
交流といえるものはひとつあるかな。
たまにあいつからのお土産が置いてあるよ。
いつも空色の風切り羽とか夜の鉱石とか。猫にしか捕れない物ばかり。
ぼくはおなじキャットフードを置いていくけどね。それがぼくらのちょうどいい距離。
そうだね。
いつまでも続く、とは言えないかな。
この黒水晶の丘はいつまでもあるけど、ぼくとあいつは年も取るし変わるよ。
いつも来たい時に来るわけじゃない地上種のぼく。ほかの場所ができたら来なくなるのが猫。
ぼくはそう思っていたから、今ここでぼくの膝であいつが寝てるなんてね。ぼくがつけないとね、猫の名前。