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変化、さもなくば死

周囲の環境に溶け込む。
保護色擬態に代表される自然界の知恵は、野生を生き抜く上で重要なテクニックである。

天敵に見つからない、というのはそれだけでアドバンテージ。
いかに戦わないかが生存につながる。
そんな強かさが、現代にまで命のバトンを繋いでいる。

しかし、この世界には時に自然界の環境さえも変えてしまう存在がいる。
人間だ。

時は19世紀、イギリス、産業革命真っ只中。
石炭を燃やせるだけ燃やしまくり、あたりは煤と煙に覆われた
当然、その影響は自然界にまで及び、小さな植物は枯れ、木々も煙で黒く染まった。

この環境下である選択を迫られた虫がいる。
オオシモフリエダシャクという蛾は、その名の通り霜降り状に斑のついた羽を持ち、ブナやカシの木の幹にまとわりつくコケに擬態していた。

だが、先述したようにコケのような小さい植物は枯れ、木々も煤けて黒い。
すると、この蛾の擬態はかえって目立つようになる。
この時、オオシモフリエダシャクは生存に関わる重大な選択圧にかけられた。

変化か、絶滅か。
その剣ヶ峰で叩き出した結論は、体を真っ黒に変化させることだった。

これは、一度シモフリとして生まれて個体が黒く変化したのではない。
シモフリが鳥などの捕食によって淘汰(大幅に減少)されたのと引き換えに、真っ黒な個体が増えたということである。

元々、どの世代にも真っ黒な個体というのは存在していた。
地衣類の育っていない幹の上では、真っ黒の方が保護色として有効だからだ。
しかし、通常色と比べれば極めて少数
それが、人類の工業化がもたらした環境の変化によって過剰な選択圧を受け、最適株が選抜され、増殖したのである。

この現象を「工業暗化」という。
一時的に少数個体が通常個体を上回り、繁栄。
工業化が落ち着くと、再び通常色の個体が増え、元の比率に戻ったという。

この事例の面白い点は、少数ながらにも真っ黒な個体が元々存在していた、という点である。
まるで緊急時のプランBを伏せていたかのように、人類がもたらしたイレギュラーに対応した。
少数かつ通常と違う個体というのは、その種が重大な危機に晒された際のジョーカーなのかもしれない。

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