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「何にもない自分と向き合いたくなんてなかった」
空が嫌に目に染みた。
目をつぶると、脳裏に浮かぶのは駄目なことばっかりだった。
散々だ。本当に散々だ。
歩調は自然と早足になる。何に向かっているのか、何から逃げているのか、もうなんだかよくわからなくて、とにかく、ぐんぐん進んだ。のどが締め付けられるようにギュッとなった。
こんな日に口にしたハンバーガーは、いろんな考えを頭から追い出している間に急速に冷めていた。口に運んだポテトの、何とも言えない温度を思い出す。人生経験も大して積んでいない若造の自分でもすぐわかった。今日口にするべきものじゃなかった。やるせない時に食べるさめてしまった料理は、心の栄養を余計に追いやってしまう。
「何が」と、親切な誰かが聞いてきたとして、自分は答えられるのだろうか。
「何が」欲しいのか
「何が」嫌なのか
「どうすれば」いいのか
たぶん、何一つ答えられない。
この苛立ちの一つは、たぶんそれだ。僕が一等星になれることはない。ずっとない。六等星になれるかだって怪しい。見つけてもらえる光を、放てるかだってわからない。
風が吹いて、電車が勢いよく線路を駆け抜けていった。
追いつけないスピードで、これから帰宅するであろう人たちを存分に乗せて。
青く、凛と光るのは、いつだって僕じゃない。
世界から逃げるようにイヤホンを耳に入れた。
こぼれるような声がして、「あたしは六等星くらいだろう」と唄った。
今日みたいな日は、きっと毎日は来ない。
明日は変わる。
僕が変わる。
だから今日だけは、あの子の声に縋るんだ。
〈了〉