「誰かいる」
冷蔵庫で牛乳をラッパ飲みしていると、玄関からガチャガチャと鍵を開ける音がする。背筋が凍るのを感じた。
―――誰かいる。
この家の者はみんな今出払っていて、家にいるのは私だけだというのに。
あまりの恐怖に、とりあえず、武器になるものを探す。台所にあった包丁に手をかける。いざという時の為に柄にはタオルを巻いた。
こわいこわいこわい。
何事もありませんように、と、台所の隅に身体をねじ込むように隠した。
* * *
嫁いだ娘に留守を任せようなんて、うちの家族も随分虫がいいな。
一週間実家を空けるのが心配だと、母に打診された時はさすがに断った。けれど、お義母さんは本当に気のいい人で、せめて数日は様子を見たら、と、わざわざ言ってくれたのだ。同居している私に気を使ってくれたのかもしれない。お義母さんは何かと心配性で、そして嫁の私に甘い。
久しぶりの実家に帰り、ソファにごろりと横になる。
携帯のバイブが鳴り、見ると早速お義母さんからだった。
「もう着いた?最近そのあたりで空き巣被害が出ているから、何かあったら連絡してね。」
全く。本当に心配性だ。
鍵だってしっかりかかっていたし、家には取るものなんてないはずだし、大丈夫。
のどが渇いたので、私は携帯を置いて台所へ向かった。
〈了〉