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K
2016年4月30日 13:51
「彼は今の状況に困っていません」 夫の主治医から聞いたこのフレーズは私にとって実に衝撃的なものだった。 この台詞を聞かされた時点で、夫はアルコールや精神安定剤にひどく依存しており、心と身体のコントロールを完全に失っている状況だった。仕事をすることもできなくなり、度々の暴力や暴言によって家族の信頼関係もすっかり崩壊していた。 困っていないはずなんてない。いや、むしろ絶体絶命といっても良い。そ
2016年4月24日 22:27
「痛み」はとても個人的なものだ。痛みをはかるものさしは一人一人のものであり、痛みを抱える人に自分のものさしを振りかざして話をすることは、時に暴力的になまでに相手の心を傷つけることにもなりうる。 それをきちんと理解しているつもりでも、無自覚に(もっと悪いことには全くの善意から)、痛みを抱える誰かに自分のものさしを押し付けようとしてしまうことがある。そして後になってそのことに気付いたとき、私は自分
2016年4月19日 01:08
「一人で何でもできる自分」が好きだった。 就職して一人暮らしを初めてから、私は自分のペースで何でも一人でできることのすがすがしさに夢中になった。自分の好きなもので部屋を構成し、好きな時間に食事をし、好きなように眠ることの快適さと言ったらなかった。 快適な生活を守るために、私の「一人でできること」はぐんぐん増えていった。 スピーカーの配線をすること。組み立て式の大きな棚を買い、自ら抱えて持
2016年4月11日 00:51
どうしてもそうしなくてはならないと思ってたけのこご飯を炊いた。幼い頃から春になると必ず食べていた季節の味だが、今年は少しばかり思い入れが違うのだ。 ----------- 夫のアルコール依存症と暴力を発端とした別居生活が始まってから半年ほどが過ぎた。私達夫婦が今後どうしていくべきかという決定的な選択をすることを私はずっ
2016年4月3日 22:29
仕事帰り、足早に駅から家までの道を歩く。幾人かの人が道端で立ち止まって上を見上げていることに気付き、視線の先を追ってみる。「あ」思わず声が出た。神社の境内にそれはそれは見事な桜の大木があり満開の花を咲かせている。 一人でこの街に引っ越してきて数か月が経つ。心配事が尽きず、通勤の道のりもどこか上の空で過ごしている私は、この場所に桜の木があることにさえ気付いていなかった。-----