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伝聞よりも実体験を積みたい(『リトル・フォレスト』)

生まれてこのかた、農家の息子として育ってきたわけだが、実はいままで本格的に農業に取り組んだことはなく、収穫した枝豆をトラックに積むだけとか、ブロッコリーに苗を植える手伝いを1日しただけとか、そのくらいしか経験したことがなかった。

しかし、それでも東京に行って、「新潟出身で実家は兼業で農業をしています」と自己紹介をすると結構興味を持たれていろいろと質問をされた。その度に、大して経験したこともないのに知ったような受け答えをしている自分に、「かっこつけて、だせえなあ」と感じていた。むしろ、興味があるぶん関東の人の方が詳しいこともざらにあった。

帰郷して3週間ほど。時期的に枝豆は収穫作業からの合流だけど、これまでやっていなかった作業にも取り組めている。米も、毎日朝夕、田んぼに水を張ったり、水が抜けている箇所を補修したり、除草したり、これまでになく深く関われている。相変わらず全行程はこなせていないけれど、以前よりも農業の大変さとか楽しさは、肌で感じたことを話せる気がする。“「知っている」じゃなく「やったことがある」を増やす”というのが、2020年くらいから真剣に掲げている行動目標だけれど、やっと少し前進した実感を持っている。

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自分の体が感じたことなら信じられる

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ネットフリックスで見た『リトル・フォレスト』。夏・秋・冬・春。四編に分かれ、四季それぞれの自然環境や育つ食材、風土に応じた暮らしぶりをベースに、主人公であるいち子(橋本愛)の田舎暮らしの奮闘や街への想い、人生の葛藤が描かれている。

“小森”は東北のとある村の中の小さな集落。いち子は一度都会に出たけれど、自分の居場所を見つけることができず、ここに帰ってきた。近くにスーパーやコンビニもない小森の生活は自給自足に近い暮らし。稲を育て、畑仕事をし、周りの野山で採った季節の食材から、毎日の食事を作る。夏は畑で採れたトマトを使ったパスタや麹から作った米サワー、秋には山で採ったくるみの炊き込みごはん、栗の渋皮煮―。四季折々に様々の恵みを与える一方で、厳しさも見せる東北の大自然。時に立ち止りながら、自分と向き合う日々の中で、いち子はおいしいものをもりもり食べて明日へ踏み出す元気を充電していく・・・・・。

映画では、「夏・秋」と、「冬・春」に分けて公開されている。主人公のいち子は、小森という小さな集落で母の福子と二人暮らしをしていたが、高校生のある日、母は突然出て行き、そのまま一人で暮らしてきた。その後、大きな街へ出たが、また小森へ帰ってきた身である。物語は高校を卒業し、街から小森へ帰ってきて自給自足の暮らしをしているところから始まる。

同じ分校に通っていた2歳年下のユウ太も、高校を卒業し、一度は街に出て就職したものの、小森に帰ってきている。その理由がこの映画を観た俺にとってのパンチライン。

「小森とあっちじゃ話されてることが違うんだよね。自分自身の体でさ、実際にやったことと、その中で感じたこと、考えたこと。自分の責任で話せることなんて、そのくらいだろ。そういうことをたくさん持っている人を尊敬するし、信用もする。なんにもしたことがないくせに、なんでも知っているつもりで、他人が作ったものを右から左に移しているやつほど威張ってる。薄っぺらな人間の空っぽな言葉を聞かされるのにうんざりした」

主体的に小森へ帰ることを選んだユウ太は、集落での生活を楽しみ、そこで暮らすための知識も集会にも能動的に参加している。一方でいち子はというと、街から逃げるように、仕方なく小森に帰ってきていた。そこで生きるために食材を育て、近隣のおばちゃんや郵便配達のおじさんの知恵も借りつつ生活しているが、むしろ大事なことから目を背けていたのであった。

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料理ものとしても楽しめる作品

以上が物語に通底している、核となる人間の心、何かに取り組む姿勢についてのことだと思う。

一方でこの映画では、その季節ごとに取れる野菜でいち子が作る料理がとても美味しそうで、料理モノの作品としても見ることができる。

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育てたトマトで作ったパスタ

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木に生えたアケビを収穫して中身を食べた後、中にひき肉を詰めたアケビの肉詰め

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イワナの南蛮漬け

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甘酒と合わせた赤米、ほうれん草を生地に練りこんだクリスマスケーキ

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大豆を藁に詰めて雪下で寝かせて作った納豆

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たらんぼ、しどけ等、春の山菜の天ぷら

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ばっけ(ふきのとう)味噌

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新じゃがと小川に生えたクレソンのオイル和え

フードディレクションはeatripが担当しているそう。美味そうすぎる。スーパーで年中いろんな素材が手に入るから、野菜の旬とか、美味しい季節というのが正直未だにわからないのだけれど、この映画を季節ごとに見ると、育つ素材が心に、季節の到来を喚起させてくれるんだろうなあ、と思った。「枝豆=夏」みたいに。

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自分でやって自分に責任を持つ

深夜に枝豆の作業をしていると、当然しんどいことがある。まず、深夜1時半くらいに起きること自体辛い。そこから気の遠くなる程に延々と枝を機械にかけ続ける。選別も、不要になった膨大な量の枝葉を運搬して捨てる作業も。でも、以前だったら、ふてくされた顔で手伝っていた作業も、今は責任を持っている。

それは、「きちんと自分で決めたから」だと自分で思う。好きだったバリスタという仕事、充実していた東京・横浜での生活、楽しかった友人たちとの時間と、家業としてやるべきことを天秤にかけて、後者に振れて、覚悟を持って帰ってきた。

「やりたくねえなあ」とか「やらされている」とか、以前は言っていたこともあったけれど、今はそういうことを言わないためにも、自分の選択と責任に集中している。

以下は、そういうマインドに至ったきっかけの一部分。ひとつはson of the cheeseのデザイナー・山本海人さんのインタビュー。道楽や生き方が好き。もうひとつは、「自己防衛おじさん」と呼ばれている人。表情とかは面白いけど、言っていることは的を得ているなあと思う。

決めたことをきちんとやる、とにかくやってみる、やって考え直して、またやってみる、というサイクルをしっかり回せるように、新潟で頑張ってみようと思います。自己防衛だよね。

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