コーヒー&シガレッツ
シリーズ
コーヒーと過ごすひと
ゲストファイル
no.2 コーヒー&シガレッツ
「最近いないから、まずい缶ばっかでしたよ!」
店の前のタクシープールを常宿にしている
タクシードライバーさんにそう言われた。
毎週、決まった曜日、決まった時間に
同じ場所にいるのだが、
流し流されあちこち行く彼らには、
営業日を伝えても、流れる日々で
すぐに忘れそうなので伝えなかった。
「今日もダメだぁ!」
「百貨店が無くなってからさっぱりですて!」
「駅前で客なんか拾わねぇ」
「土日は休む。平日も日中だけ。流せば流すほど会社に取られるからな」
齢50後半ほどの男性で、口を開けば
市長や会社、客への罵詈雑言が溢れ出てくる。
しかし、ニコニコと明るく活弁のせいか、
愚痴る様子はまったく負のオーラに包まれていない。
「アイスコーヒーちょうだい!」
運転席の扉を叩き閉め、こちらに向かって
笑顔で注文をすると、淹れてる間、
タバコを吸いにどこかへ消える。
あるとき、ニコニコしながら
「ヤニ切れですわぁ!」と言った。
吸ったらどうですか?と尋ねると、
「無くなったんですわ!」と返された。
メンソールで良いなら、と自分のを渡すと、
大きく感謝された。
タバコ1本の需給の場には、
圧倒的な上下関係が生まれる。
たとえ年齢が上であったとしても、
持ちヤニ0の立場では、平身低頭極まるのである。
そうして、渡した一本を吸い終わり、
戻ってきて開口一番
「効きますねぇ!スリムよりこれがいい!これ何ですか?」
キャメルのメンソール、430円ですよ、と
伝え、一緒にアイスコーヒーを渡す。
お客がいつ来るか分からない彼らには
常に、行為にタイムリミットがある。
ものの数分の会話を終え、
コーヒー片手に車内に戻っていった。
翌日、いつも通りの明るい表情をこちらに向け、同時に、
「買いましたよ!」と、
黄緑のキャメル(スリム)をこちらに見せてきた。