『No,9』第2話【週刊少年マガジン原作大賞連載部門応募作品】
ある日、上官が、俺とやつを呼んだ。
…なんでやつなのかわからなかったが、俺だけでいいのでは。
上官は、硬い表情だった。
…なんだかいやな予感がした。
今ほど連絡が入り、ゲリラ壊滅で偵察に行った…
ドックン…
心臓の音が大きくなっていった…
まさか
まさかだよな。
ドクドクいって、全身の血が沸騰しそうだった。
チヌークが落とされた…敵地のど真ん中でだ。
ドッ…
ドッドドドド
震えるのが自分でもわかった…冷や汗が流れる。
…ダメだ自分を保てない…
「…なんだと!?
パイロットは?!??パイロットはどうなった!?」
上官相手にこんな暴言よくないのはわかっているが、気持ちが追いつかない。
「…生存は確認されたが、敵地の為救出は困難な状況下だ…」
「今すぐ救出に行かせてくれ!!!」
…女が敵国に捕まるとどうなるか…
「ダメだ。これは国家間の問題になる、戦争を始めることになる。」
「人質解放の交渉を待つしかない…あるかどうかわからないが…」
「くそっ!!!!
今すぐ行かせてくれ!!!」
「…あの」
「なんだ?邪魔するな!なんでお前がいるんだよ!関係ねぇだろう!出ていけ!!」
制御が効かない…怒りをそのままぶつけた。
「…私が行きます…」
「は?何を言ってるんだ?」
「っていうか、お前英語喋ってるじゃねぇか!くっそ、手玉に取られてたのはこっちか!」
イラつきがマックスになり、思わずやつの胸ぐらを掴んだ!
「ふざけるな!何が私が行きますだよ!お前の国は金だけ出す実戦のないひよっこ集団だろうが!口出しするな!」
これは完全なる俺の間違った怒りのぶつけ方だ…だが、もし彼女が敵の人質…まして憎まれているアメリカ兵…女となれば格好の……
想像したくもないが、怒りで拳が震えてきた…。
しかし、やつは胸ぐらを掴まれたまま言った。
「 …日本の法律では私達自衛官は人質交渉もされず、国家が助ける事もありません、だからこそ、国家間の戦争になることはありません。
闇に葬られます。」
「…ただし、彼女はアメリカ人、敵国は人質にするか、それとも…」
やつは敢えてその先を言わなかった。
「ですので、私が救出しても、『一般人が救出した』ということになります。」
「一刻を争います。
私の上官も承知しております。その為に私が呼ばれたのです」
…俺はやつの胸ぐらから手を離し、自分の上官を見た。
「だから呼んだんだ、“彼”を」
上官は、俺を見ていった。
「彼を極秘に敵地に送り込む、その説明をお前にはしておきたくてな。」
「…だが、もしやつも囚われたら、…」
「今まで、私は一度も囚われたことはなく、人質も1人残らず解放してきました。」
静かに言った、いつもと同じトーンで。
「任せてください。」
どんな言葉も嘘に聞こえる状況で、こいつの言葉だけは信用できる気がした。
「貴方の大切な方を必ず連れて返ってきます」
と俺にですら聞こえるか、聞こえない小さな声で言った。
俺はやつの目を見た、揺るぎない目で真っ直ぐと俺を捉えていた。
…なんで?知ってるんだ?一言も話したこともないし、自分のチームですら知らない…
「…頼む」
「…任せてください。」
↓第3話