
【健康しが】インタビュー企画「Well-beingプログラムの開発と指標づくり」
こんにちは。
立命館大学食マネジメント学部の豊田です。
今回は、滋賀県の健康しが活動創出支援事業費補助金に唯一の大学生枠として採択された、「自然資源を生かした体験型プログラム『アウトドアダイアログ』」のプロジェクトを私たちが実施するにあたり、野外での自然体験がどのように肉体面や心理面などに効果が得られたのかを測る研究をされている立命館大学食マネジメント教授の吉積 巳貴先生にお話を伺いました。

みんなでつくる「健康しが」の取り組み
県民のみなさんがいつまでもその人らしくいきいきと生活していくためには、一人ひとりが主体的に健康づくりに取り組むとともに、個人を取り巻く環境づくりが大変重要です。
企業やNPO法人、大学、地域団体などの多様な主体が互いに連携して健康に関する取組を実施することは、行政が行う取り組みの枠組みを超え、広く県民の健康づくりを推進することにつながります。
滋賀県では、県民のみなさんの健康寿命の延伸と健康格差の縮小を目指し、個人の生活習慣の改善を通じて、生活習慣病の発症予防・重症化予防を図ることにより、個人の生活の質を向上させる「健康なひとづくり」と、あらゆる世代の健やかな暮らしを支える社会環境の質を向上させる「健康なまちづくり」を柱にした取り組みをみなさんと一緒に進めていきます。
ひとと地域を元気にする『Well-being』プログラムの開発
吉積先生らの研究チームで取り組んでいるのが「ひとと地域を元気にする『Well-being』プログラム」。大学キャンパスを含めた地域資源をWell-being創出資源として捉え直し、Well-beingを意識したキャンプの実施とWell-beingプログラムの評価方法の開発を進めています。

評価指標の開発には、立命館大学食マネジメント学部の保井智香子准教授や山中祥子助教、理工学部の岡田志麻教授らが関わっておられます。
個々人の心身両面にわたるwell-beingだけではなく、地域のwell-being向上を目指す。Well-beingプログラム効果の検証に関し、心理指標(社会・健康心理学研究の知見より山中担当)、生理指標(健康・栄養教育研究の知見より保井担当)、非認知能力指標(ESD研究の知見より吉積担当)、地域経済やコミュニティへの影響に関する指標(地域づくり実践の知見より高田担当)、心の距離メーターを用いて、well-being効果の測定を試みる。また岡田らによって開発された「心の距離メーター」を用いて、体験活動やサウナなどを通して参加者間の心の距離を測定することで、人間関係の質を向上し心身の健康増進と幸福を目指す。
地域づくりに欠かせないひとの幸せ
吉積先生の専門はまち・地域づくりや持続可能な発展のための教育(ESD)で、現在は、私も所属する立命館大学食マネジメント学部で食文化や地域の食資源を再評価し、地域資源を持続的に利用・管理しながら地域住民が主体的に行う地域づくりに関する研究や学生がフィールドで学ぶプログラムについての開発について研究をされています。

今回インタビューで取り上げたWell-beingプログラムの評価指標の開発は、滋賀県の農山村をはじめとした地域をフィールドで、吉積先生がまちづくりの研究をされる中で感じた課題がきっかけになっているといいます。
「地域がよくなることの大前提として、取り組む個々人が満足感や達成感といった幸せを感じていなければ、まちづくりは続かないと感じました。それをエビデンスとして見える形にできれば、今の日本のまちづくりにもっと活かせるのではないかと思います。」
特に近年は、Well-beingというキーワードが日本の行政でも世界的にも注目され、ひとの幸せについての研究に関心が集まっています。コロナ禍の影響でひととのコミュニケーションが制限されたり、食生活の乱れや精神的な疲労があったりすることが大学でも問題になりました。
大学生が地域と関わるきっかけをつくる
これまでも地域活性化を目的としたプログラムを開発することにも取り組まれている吉積先生。今回の研究も指標づくりと合わせて「ひとと地域を元気にする」をテーマにアウトドアプログラムを実施しています。

吉積先生は、「日本では、まちづくりと言うと高齢者が主体で若い人が少ない現状があります。地域に関心を持ち、地域の課題に取り組む重要性を知ってもらうにはどうすればいいか、そのきっかけとなるような機会を作っていきたいです。」という想いを持って活動をされています。

「ひとと地域を元気にするウェルビーイングプログラム」では、地域の自然を感じてもらえるように、そして若い世代・大学生に関心を持ってもらえるようにアウトドアプログラムを考案。地域の食材を使って野外調理をしたり、テントサウナや焚き火を行ったりしました。
Well-Beingプログラムに主要な要素とは
吉積先生を中心とした研究チームでは、滋賀県の豊かな地域資源である自然、農山村、食の魅力を「Well-being」創出資源として再定義し、参加者がWell-beingを感じるきっかけを創出するプログラムを開発することを目指しています。

その上で、Well-beingを構成する3つの要素を定義しています。
①喜び・楽しみ・休息・気晴らし
②意味がある経験・学部・自己達成感・自己啓発・自己実現
③利他的な活動・持続可能性・環境活動・地域コミュニティへの貢献

Well-beingを測る指標としては、OECDなど国際的な機関からも発表されています。しかし、これらの指標は長期的な視点を持って人生における幸福度を測ろうというものが多いです。
そこで、吉積先生の研究チームでは、ひとつのプログラムを通した個々人のウェルビーイングの向上を見える化する、短期的な指標づくりに取り組んでいます。
「評価指標をつくることはすぐにできるものではなく、実践と検討を重ねていきます。この指標をもとに、人と地域を元気にできたかどうか、ひとつのプログラムを通して測定し、地域とウェルビーイングに関するエビデンスとして見える化していけるように、引き続きプログラムづくりと効果測定を行っていきたいです。」とのことです。
最後に
今回の吉積先生の話を聞いて、私たち大学生も友人や家族と一緒に普段とは異なる環境で食事を囲んだり、グランピングを楽しむことで「幸せ」を感じることが多いです。普段は、あまり意識しなかったこの幸せを数値化、可視化されると滋賀県内でどこが一番ウェルビーイングが高くなる場所である、どんな人と一緒にキャンプやサウナをするとウェルビーイングを感じることができるのかを明らかにすることができると思いました。一方で、コロナ禍で若い世代にも孤独や孤立などのコミュニケーションの課題も顕在化してきました。このような課題に対しても、吉積先生の研究成果が応用されていくのではないかと思いました。今回の私たちの活動である「アウトドアダイアログ」にもこの効果測定を取り入れたいと思いました。
吉積巳貴
立命館大学 食マネジメント学部 食マネジメント学科 教授
専門は環境まちづくり、環境教育、持続可能な発展のための教育(ESD)など。地球環境学博士。国連地域開発センター防災計画兵庫事務所リサーチアシスタント、京都大学大学院地球環境学堂助教、京都大学学際融合教育研究推進センター森里海連環学教育ユニット特定准教授、立命館大学食マネジメント学部准教授を経て、2019年4月より立命館大学食マネジメント学部教授。近年の共著に『SDGs時代の食・環境問題入門』(昭和堂)。