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若者から見た!『地域コーディネーター・地域中核人材育成研修』 DAY1 レクチャー

10月27日、28日に長崎県対馬市で、「環境省 令和4年度地域の木質バイオマス熱利用推進に向けた『地域コーディネーター・中核人材育成研修』現地集合研修」が開催されました。

このnoteでは上記研修のレクチャーについて、大学生である筆者の目線から、地方における「木質バイオマスの熱利用」に関する体験談をお伝えします。

筆者について
自己紹介 窪園真那
鹿児島県鹿児島市出身で、幼少期を奄美大島で過ごす。立命館大学産業社会学部2年生。鹿児島市や奄美大島で育ったことで、「人口減少により衰退していく魅力ある地域でいかに持続可能なまちづくりをしていくか」に関心を持つ。そのためには「地域外へのエネルギーコスト流出」を防ぐ必要があると考え、現在、エネルギー政策を勉強している。

二日目の現場研修、及び参加者へのインタビューについては、以下のリンクからご覧いただけます。

研修の背景と目的

今回の研修は「木質バイオマスエネルギー導入の主役であるべき地域において、専門知識を持つ人材が不足している」という現状の課題のもと、地域の目指すビジョンを踏まえ、木質バイオマス熱利用の実現に向けた「地域再エネ事業全体をコーディネートしていくことができる人材」を育成することを目的としていました。

また、研修の狙いとして「地域単位での面的普及をするためには、地域ごとに主導的に事業をけん引していく体制を育てること、面的な視点をもって地域のビジョンと戦略的シナリオを描ける人材を育成すること」が定められていました。

私自身、大学のある滋賀県にて、地域活動を行われている方々と接する機会は非常に多いのですが、狙いにもある「面的な視点をもって地域のビジョンと戦略的シナリオを描ける人材」が、活動や行政が活発な地域には多いと実感しました。


はじめに~若者の目線~

本研修を受け、地域で木質バイオマス熱利用に取り組むことは決して画一的ではないことを実感しました。

各地域のサプライチェーンの課題や状況は異なり、それぞれの地域に適した取り組みを丁寧に行う必要があると思います。しかし、どの地域でも共通していたことは、木質バイオマス熱利用を通して、地域の課題の解決や魅力向上につなげたいという目的でした。その点、木質バイオマス熱利用の地域経済でのポテンシャルは非常に高く、有用的なものだと感じました。

特に私のような大学生にとって、木質バイオマスの熱利用についての専門的な研修は非常にハードルが高いと感じる人も多いと思います。しかし、より具体的な検討を行うために、レクチャー中繰り返し出てきた「川上・川中・川下のサプライチェーン全体」を意識できる機会が研修を通じて、設けられた事が非常にありがたかったです。

エネルギーは発電だけでなく、運搬・供給・利用・CO2吸収などのサイクルの中で多様な産業が関係しています。脱炭素社会実現に向けて、その産業構造が変化する、そしてどのように変化していくかを注視していくことが大切です。

若者にとって、産業構造の変化は非常に関心が高いです。就活、ましてや自分自身の将来の生活までもが変わってしまうからです。そんな中、木質バイオマスは、サプライチェーン全体で、多様な産業、そして若者も含め多くの人と関われる業界と知ることができました。

そのため、木質バイオマスへの関心の間口をより広く設定し、特定の大学や教育層だけでなく、様々な段階の若者が参加できる機会を作ることで、より木質バイオマス・林業について興味を持つのではないかと思います。

更に多くの人に関心を持ってもらうために、木質バイオマスの多様性と持続可能な社会を目指したライフスタイルとの高い適合性を、広くかつ簡単にPRしていく必要があると感じました。

一方、この研修の目的である、面的に普及するための「地域人材の育成」に関しては別のアプローチが必要とも感じました。

ここについては、広く活動を行うだけでなく、本当にやりたいと思ってくれる「本気の人材」を一本釣りできるような仕組みや、「本気の人材」がそれを見つけられるような場所が必要だと考えるきっかけになりました。


レクチャーのようす

今回の研修に参加した地域は

・長崎県五島市
・石川県珠洲市
・大阪府豊能郡能勢町
・滋賀県長浜市

の皆さんでした。

行政の職員や地域おこし協力隊などの実行者、供給側の森林組合や需要側の公共施設・福祉施設の職員が参加しており、木質バイオマスの導入を地域全体で取り組もうとしていることがよく分かりました。

また、レクチャー中に何度も出てきた、川上(造林保育・素材生産)、川中(木材加工・流通)、川下(建設業・消費者)のステークホルダーについて、参加者の方々も多様な人がいることが驚きでした。

これまで、林業・木質バイオマスと考えるとどうしても、「山に入って仕事をする人ばかり」というイメージを持っていたのですが、想像以上に様々な方々の関わりあいがある業界であることを知ることができました。

一方で、俯瞰した課題やステークホルダーごとの課題に関しては、地域別で非常にさまざまでした。一方で、化石燃料や輸入資源が高騰する中、地域の資源を活用し、地域経済を活性化していこうという思惑は、どの地域も共通のものであるとわかりました。地域の課題に関して、どの地域も「森林面積は多く、ポテンシャルは高いものの、間伐材の利用やバイオマス熱利用は十分に為されていない」と、話していました。


講義1 ~対馬におけるバイオマス座談会~

講義1では座談会形式で、「対馬におけるバイオマスの取組経緯」が主に紹介されました。

はじめに、対馬市役所・農林しいたけ課の糸瀬真太郎さん、この研修のリーダーであるバイオマスアグリゲーション代表取締役の久木裕さんより、対馬市のバイオマスの取組背景・取組の概要について説明がありました。

「湯多里ランドつしま」の取組

障害をもつ方々の働く場所の確保を目指していた、市の公共施設「湯多里ランドつしま」では、第三セクター方式で経営していたが、一年程度で倒産。

最大の原因は、水道光熱費の高騰。施設(温泉・プール・レストラン)運営に必要な灯油価格の負担が大きく、経営悪化に至ったようです。そこで、ある技術者の方が、「対馬は森林が豊富だから、端材を利用したら光熱費が抑えられるのではないか」というアドバイスをしたとそうです。

その助言をもとに世界に目を向けると、多くの事例があり、最終的にスイスのボイラー導入を決めたと言います。

平成17年度に、当時の指定管理者であった社会福祉法人「米寿会」が「湯多里ランドつしま」に、自らチップボイラ導入しました。これは、燃料費低減と地域資源活用による林業振興・経済循環創出に成果を上げた、全国的にも早期の取り組みと伺いました。

指定管理者制度とは、多様化する市民ニーズにより効果的、効率的に対応するため、公の施設の管理に民間のノウハウを活用しながら、市民サービスの向上と経費の節減を図ることを目的に、平成15年6月の地方自治法改正により創設されたものです。

世界情勢にも影響を受けず、ある程度は安定供給が可能になるという構想で、設置を決めた。」と、米田民生さんは話します。実際、年間3300万円かかっていた水道光熱費が、購入後2年経った状態で、1800万円にまで抑えることに成功し、購入前と比べて約55%の水道光熱費となっているようです。

その後、対馬市では、平成22年に公共・温浴施設、平成23年に民間・製塩工場でチップボイラを導入し、計3機の稼働が実現し、面として地域にバイオマスボイラの導入が進んでいるとのことです。

FIT制度導入という転換点

FIT制度の導入において感じた課題感を語る久木さん

バイオマス利用がより活発になったきっかけが、2012年のFIT制度導入であったと久木さんは振り返ります。

FIT制度(再生可能エネルギーの固定価格買取制度)は、再生可能エネルギーで発電した電気を、電力会社が一定価格で一定期間買い取ることを国が約束する制度です。

当時はFIT制度によって、バイオマス発電の可能性の期待も高まり、発電事業者からの提案(5MW級の蒸気タービン発電、2MW未満のガス化発電)も相次いだようです。このような時代の流れもあり、多くの人々がビッグプロジェクトを推し進める傾向があり、機運が非常に高まっていたようです。

一方で、久木さん自身も林野庁の推進員として参加したが、「チップの安定供給が実現されない・採算が合わないこと」が地域の実情だったと言います。

久木さんは「地域の森林環境や林業の関わりの中で無理に発電にこだわると負の遺産になりうる。発電ありきではなく熱利用も含め、自分たちの地域に合ったスタイルにすべき」と話していました。

特に対馬は離島で、大きなマイクログリッド的な状況にあるため、本土以上に再エネ化し、エネルギーの地産地消実現をする必要があります。加えて、森林の資源を活用・森林保全を実現することも大切です。

しかし、その取り組みを地域に即さない規模感で実施し、実態に即していない事業にもかかわらず、補助金に依存してしまうと、持続可能ではありません。

久木さんは「外部の事業者ではなく、地域主体で行うことが必要。さらに、ビジネスベースで成り立つ取組を行い、補助金依存にならないようにする必要がある」と参加者に向けて、強調しました。

エネルギーエージェンシーつしま
事業に必要なこと~信頼関係・協力関係~

また、これまで森林を持つことは固定資産税が掛かるだけ、整備しないといけない負債と考えている人たちが多いですが、実は石油という資源を持つ石油王という存在と同じように、森林資源は枯れることのない宝であり、それを使った事業を行うべきという考え方が必要と伺いました。

実際にヨーロッパなどでは、「エネルギー林業家」という人が存在すると伺い、このような呼び名があるヨーロッパでは、森林資源が非常に重宝されている証であると私は思いました

さらに、「そのために必要なことは、設備よりも、『木質チップの質やチップ業者との連携』」と久木さんは強調します。また「山側の人々が資源を継続的に供給してくれるかが何よりも重要」と、関係者の皆様も強調します。

熱心にメモを取られる参加者の皆様

地域の人々は「当時、自分達だけで経営していく、展開していくことには限界があった。外国製のボイラーを信用しきれていない部分があったが、話していくうちにこの人たち(久木さんら)なら信用できるかなと感じた。」と話します。

山側から供給される木質チップはいわば、中東などから輸入する石油と同じ役割を担っています。供給が停止する、あるいは質の悪いものが供給された場合、直接人々の生活に影響を与えてしまいます。

久木さんは「森林組合の方々と信頼関係・協力関係を築き、場を整えて、随時、市長などのトップに話を共有したことも非常に大切なことだった」と当時を振り返りました。つまり、地域内の川上・川中・川下は非常に近しい関係であるからこそ、信頼関係や協力関係の構築が難しいところもありますが、その解決には「腹を割って話すこと」が必要だと、改めて理解することができました。

このような経緯で、エネルギーエージェンシーつしまは市内の林業・木材関連事業者とバイオマス専門企業が協力して出資して、設立されたとのことです。

一見、難しい設備や技術、システムをどのように構築するか、ということがバイオマス熱利用を地域で行うにあたって、最も難しい課題であるようにこれまでは思っていました。しかし実状は、いかにして地域内でのエコシステムを作ることができるか、そのための人のネットワークを作る事ができるかという、実例を知ることができました。


講義2 〜森林組合の役割について~

講義2では、「地域の森林整備の意義とバイオマス熱利用への期待〜森林組合の役割について〜」というテーマで、長崎県森林組合連合会の小川透さん、対馬森林組合の園田茂さん、エネルギーエージェンシーつしまの松本辰也さんより、レクチャーがありました。

森林組合の役割について

森林組合とは何か。

森林は、国有林、公有林、私有林に区別され、それぞれに必ず所有者が存在します。そのため、森林特有の小規模分散や営利企業の参入が困難などの問題点があります。このような状況下で、森林組合は個別の権利を確保しながら、自立した経営を可能にする仕組みを維持しています。これを、「協同組合としての森林組合」と言います。

森林組合は、農協、漁協と同じ協同組合です。しかし、農協や漁協の組合員は農業従事者、漁業従事者である一方、森林組合の組合員は森林所有者で、森林の保続培養に努める必要があります。また、森林組合は森林組合法において「協同組織の発達を促進することにより、組合員の経済的・社会的地位の向上と森林の保続培養、森林生産力の向上を図り、国民経済の発展に資することを目的」と規定されています。組合員の利益だけでなく「森林の保続培養」といった公益的部分にも期待された協同組合であるのです。そのため、森林組合と接する際は、森林組合を事業者(川中)としての観点ではなく、地主・森林所有者(川上)として接することが大切であると伺いました。

森林整備事業について

地域での実情や、森林組合の違いなど、レクチャーを真剣に聞く参加者

現在、森林所有者の多くは、森林整備事業(搬出間伐)にかかるコストを木材販売代金で賄うことができていません。この状況が続いた場合、公益性を保つことができない上に、山の保続培養どころか、山が荒れてしまいます。そのため、国は造林補助金を出していますが、それでもなお、間伐材を高く売ることができなければ所有者負担金が必要となります。

森林組合では、造林補助金なども活用しつつ木材販売代金を最大限化し、森林所有者に還元し、森林所有者の森林経営意欲を高めることを目標としています。そのためには、森林所有者(組合員)は森林組合そのものであり、林業に一緒に従事しているという関係性を構築することが重要です。

小川さんは、「補助金を受けながらも、木材の価格を品質ごとに適切な価格で販売し、所有者への還元金額を上げましょう」と繰り返し、強調しました。続けて、「効率的な素材生産・販売金額の最大限化・適切な経営計画の策定は何より大切。森林所有者、地域社会、森林組合及び地域の林業事業体の職員・従業員にとって良いものにし、社会の持続的発展と持続可能な木質バイオマス利用推進を同時に進めていきたい」と熱意を込めて、話しました。

去年の研修までは、この森林整備の意義や森林組合の役割について学ぶ時間はなかったと言います。しかし、これまでの話からも分かるように、木質バイオマスの熱利用は、燃料の確保が非常に大変で、川上側も利益を得られるような合意形成が何より重要です。

そこで単純に川上側に「木質チップを作ってくれ」ではなく、未利用木材(間伐材・主伐材)、一般木材(製材)、リサイクル木材(建築資材廃棄物)などの様々な資源にも着目し、川上側の方々がさらなる利益をえられるような構造も考えておくとよりプロジェクトの推進にもつながります。アプローチの一つの方法として「余剰建材や廃材など木材を産廃として廃棄している業者を見つけることから始めると良い」とエネルギーエージェンシーつしまの松本さんから参加者はアドバイスを受けていました。

ただし、何を目的として木質バイオマスのプロジェクトをするかは非常に重要です。単に木質バイオマスの熱利用をすることが目的であれば、燃料として余剰建材や廃材などの木質系産業廃棄物で良いが、その場合はほとんど川上側とのつながりは無くなってしまいます。一方で、既に産業廃棄物業や製材業を行なっている業者を巻き込み、事業をするのであれば、既に業者が製材端材などの高品質な原料やチッパーを持っている場合があるため、イニシャルコストを圧縮することができ、ハードルも低くなります。

木質バイオマスの熱利用は各地域での林業の実態と熱需要に対して、柔軟性を持った形で適合し、地域林業、地域経済に持続的に貢献できる可能性を秘めていると強く感じました


講義3

講義3は、「ESCO型事業の構築のノウハウと対馬での実践」というテーマで、レクチャーがありました。

ESCO型事業
ESCO型事業は、省エネルギー改修にかかる全ての経費を光熱水費の削減分で賄い、事業者は、省エネルギー診断、設計・施工、運転・維持管理、資金調達などにかかる全てのサービスを提供します。この事業では、全ての費用(建設費、金利、ESCO事業者の経費)を省エネルギー改修で実現する光熱水費の削減分で賄うことを基本としています。そのため、ESCO事業の実施により自治体が損失を被ることがないよう、事業採算性が重視され、自治体の新たな財政支出を必要としません。さらに、契約期間終了後の光熱水費の削減分は全て自治体の利益になります。(環境省webより参照)

ESCO導入の手引き(自治体向け)
https://www.env.go.jp/council/35hairyo-keiyaku/y352-01/ref06-2.pdf

バイオマスの熱利用促進

「バイオマスはこれまで発電ばかり進んできた背景があるが、エネルギー効率の面から考えると、熱利用を推進することが最も大切です」と久木さんは繰り返し、強調します。

しかし、全く進んでいないと言っても過言ではありません。日本での導入数は業務用施設などを中心に約2000台。一方、オーストリアは30万台程度で、小型の領域が導入数の大半を占めています。さらに、「日本は導入段階で完結してしまっているため、運用段階も含めて地域で安心して利用できる形にするべきだ」と久木さんは話しました。

ESCO型事業の進め方

従来のバイオマスボイラのスキームは、燃料供給事業者が燃料の供給を行い、熱需要家は燃料代に加え、チップボイラの導入費用・運転管理などの費用を負担していました。

一方、ESCO型のエネルギーサービスの事業スキームは、燃料供給事業者と熱需要家の間に「エネルギー会社」が入り、需要化の施設内にボイラの設置、ボイラの運転管理に加え、山側からの燃料供給を受け、熱エネルギーの販売を行います。熱需要家(クライアント)は、熱エネルギーとサービスの料金を支払うという仕組みになっています。

そのため、専門性を有した、意欲ある民間がフルサービスで熱を販売することが可能になります。また、需要家の初期投資の必要がないことはもちろん、民間のエネルギー会社が事業をすることで、地域の面的な普及も期待できると考えられます。

特に公共施設では職員の移動がある、専門性がないためコンサル任せになる、公共事業の積算方法に基づくと施設整備費が割高になることなどから、民間主導のESCO型エネルギーサービスは非常に相性が良いと言います。

以上を持って、初日のレクチャーが終了しました。二日目の実地視察の感想については、下記noteより、閲覧が可能です。

[リンク掲載場所]

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WoodBio 交流プラットフォームとは
(案)WOOD BIO(木質バイオマス熱利用プラットフォーム)は、木質バイオマスエネルギーの熱利用に取り組もうとする方に向けて、事業実行に必要な情報や、仲間と意見交換できる場、専門家に相談できる場を提供するWebサイトです。交流プラットフォームでは、本記事で紹介した研修を始め、様々な地域での木質バイオマスの熱利用に関する研修情報や、イベント、実践者と交流することができる機会の提供を行っております。

https://community.wbioplfm.net/

※本noteは、株式会社バイオマスアグリゲーションのご提供の基、一般社団法人インパクトラボが作成いたしました。


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