対馬グローカル大学〜域学連携をしまづくりの施策に〜
こんにちは。
インパクトラボの窪園です。
この度、10月27日に長崎県対馬市役所に伺いました。
今回は、対馬市役所のSDGs推進室の崔さんと明治大学の学生で島おこし協力隊、学生研究員の高田さんに「対馬グローカル大学」についてお話を伺いました。
今回の視察は、滋賀県や長浜市へのカーボンニュートラルの社会実装のイメージを共有するため、島全体で、島の持続可能なまちづくりに取り組んでいる対馬市の実践から学ぶことを目的としました。
この取り組みは、2022年度立命館大学グラスルーツ・イノベーションプログラム(GRIP)に採択された「カーボンニュートラルを軸とした新たな教育パラダイムの創出・実践・量的評価指標の開発」(代表者:山中 司・立命館大学教授)の研究の一環で実施しています。(注)
対馬グローカル大学
対馬グローカル大学は、「いつでも、どこでも、だれでも学べる」をコンセプトに、オンラインを活用した場所を選ばない学びのスタイルを実現しています。「域学連携」(地域と大学との連携による地域づくり)でゆかりのある研究者・専門家・実践家等に協力していただき、教養や専門性、ネットワーク力を高める機会を提供しています。
「グローカル」という言葉は、グローバルとローカルを掛け合わせた造語で、グローバル規模で物事を考え、ローカルで実践をするという意味です。
対馬グローカル大学での学びを通じて、言葉通り、地球規模の視野を養い、地域視点で行動することを目標にしています。島内外の志をもった多様な人々と交流し、最新の科学研究に触れることで、誰もがいつまでも安心して暮らし続けられる島、持続可能な社会を考えます。
三本の柱 〜知る・深める・語らう〜
対馬グローカル大学では、三本の柱を掲げ、大きく3つの活動を展開しています。
Youtubeやzoomを活用したweb講義を受け「知る」
議論をしつつ、アクションを起こすオンラインゼミで「深める」
Slackを用いて、仮想研究室で「語らう」
まず、web講義は、対馬で研究や実践活動を行っている専門家・実践家から、直接、環境、社会、歴史文化・芸術、経済・ビジネス等について教わることができます。
オンラインゼミでは、6つのテーマに分かれ、担当講師の指導のもとゼミ活動に取り組みます。ゼミでのテーマや関連したテーマを受講生各自で決めて取り組みます。
仮想研究室では、受講生、講師陣、スタッフの交流を深めるため、Web上に情報交換・意見交換の場を設けます。この場では「Slack」を用い、色々なテーマで交流を楽しむことができます。雑談(チャット)の中から生まれる気づき、そして思いがけない発見・アイデアを大切にします。
対馬グローカル大学の受講者は、対馬市民の方々はもちろん、対馬出身者や対馬を好きな人、域学連携で対馬にゆかりのある大学生など様々です。講師は、大学教員や実務家、島おこし協力隊員などが担っています。「九州大学・立教大学・明治大学をはじめ、様々な大学が関わっており、あたかも対馬をもう一つのキャンパスとして捉えて活動をしているようだ」と崔さんは話します。
対馬グローカル大学は修了すると、SDGs総合研究所の市民研究員として、経費面のサポートを受けながら、活動することが可能になります。
域学連携がまちづくりの重要な施策
対馬市は域学連携(地域と大学との連携による地域づくり)をまちづくりの重要な施策として位置付けています。基礎自治体には珍しく、域学連携に関する政策分野別基本計画「対馬市域学連携地域づくり推進計画」(日本計画行政学会第17 回計画賞最優秀賞受賞)を平成26 年度に策定しています。
この計画に基づき、対馬全体を国内外複数の大学のサテライトキャンパス「対馬学舎」に見立て、現場での「学び」というサービスへの対価として、離島地域に不足しがちな労力や若いエネルギー、専門性を学生・教員に提供してもらっているという仕組みです。
取り組みの中に、島おこし実践塾というものがあります。毎年夏に開催している短期実践合宿で、主に島外の大学生や地元高校生等約30 名が参加し、令和元年度までに約300名の塾生を輩出しています。また、域学連携の活動成果を対馬に還元し、地域活性化や、市民の誇り意識の醸成のため、年に一度、対馬学フォーラムというイベントもあります。島外の研究者や大学生だけでなく、地元の小中高生、地域団体関係者も参加するポスター発表大会に発展しているそうです。「これらの島おこし実践塾や対馬学フォーラムが人材バンクのような役割を担い、対馬グローカル大学などの参加者や関係人口を増やす」と崔さんは話します。
対馬市は、ESD対馬学という高校生の総合的な学習にも積極的に取り組んでいます。特に、ユネスコスクールに認定されている長崎県立対馬高校で取り組んでいます。ESD(Education for Sustainable Development)とは、「持続可能な開発のための教育」のことです。高校生が、自主的に、対馬市民や専門家とのコミュニケーションを通し、対馬の魅力や問題について議論し、解決法を考えていく学びです。活動した結果は、文化祭や対馬学フォーラムにて発表されます。「この学びはキャリア教育も含んでおり、SDGsや社会について実践的に学びながら、将来、自分自身が対馬や社会とどのように関わっていくかについて学ぶことができる」と崔さんは熱意を込めて話しました。
また、崔さんは「行政が行う学術的な活動には限界がある」と話します。対馬グローカル大学の活動を通して、各分野のデータの取得が可能になります。そのため、当初は対馬市が受講生を募集する段階で、研究のテーマを指定していたと言います。外部からも審査員を招待し、町内の審査会で研究員を選定しているそうです。対馬グローカル大学の活動を通して、対馬という具体的なフィールドでの研究が実施され、対馬のさらなる魅力拡大や課題解決に貢献でき、各分野の関係人口拡大にも寄与できる、素晴らしい取り組みであることを実感しました。実際、今回お話を伺った崔さんと高田さんもきっかけは域学連携で、学生研究員として対馬と関わるようになったと言います。高田さんは「対馬は博士課程でも実際に地域に入りながら研究できる場所」と、学生、研究員にとっての対馬の魅力を話します。
さらに、対馬グローカル大学を域学連携をまちづくりの施策として発展させていくためには、さらに普及させる必要があります。「継続的な参加者は100人ほどいるが、全員には知れ渡っていないことが課題」「FacebookなどのSNSを活用して、対馬グローカル大学の活動について積極的に発信しているものの、大学を意識した名称がハードルを高くしてしまっている可能性があるため、間口を広くしていかなければならない」と崔さんらは話しました。
関係人口の創出
将来的に、地域が持続可能な社会になるためには、地域の様々な課題を解決していくことが必要不可欠です。カーボンニュートラルの実現するための過程も同様です。エネルギーは発電だけではなく、運搬・供給・利用・CO2吸収などのサイクルの中で多様な産業、多様な立場の人々が関係しています。そのため、一つ一つの地域課題と向き合い、解決することが、カーボンニュートラル実現に向けた、一歩一歩となります。そして、地域の課題解決のためには、様々な分野の専門家、若者、市民などが関わる必要があります。
その点、対馬市で行われている域学連携を施策としたまちづくりは、様々な人々が対馬市や対馬市民と関わり、地域の課題解決・魅力向上のために活動することができています。対馬グローカル大学をはじめとした、域学連携の取り組みが関係人口を創出することにつながっているのです。関係人口とは、移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域と多様に関わる人々を指す言葉です。
滋賀県や長浜市で、カーボンニュートラルの実現に向けた取り組みとして、県内・市内の専門家、若者、県民や市民と共に取り組むことはもちろん、県外・市外の人々も含めて取り組み、関係人口を増やしていくことも重要であると感じました。
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